197/211
5ー48
クラクション。
驚いて顔を上げると、目の前には見慣れた車が出ていた。
「ほら、早く乗りな」
運転席から顔を出す母を見て感情が高ぶる。
「泣くより早く乗りなって! 1秒でも長く話したいだろ」
「……うんっ!」
まだ望みがある。暗い道の終点が見えたかの様な感覚だ。みんなが繋いでくれた、私という名のバトン。
急いで助手席に入り、袖で涙を拭く。
「シートベルト締めて。すぐ出るよ」
シートベルトに手をかけた時に荒々しく走り出す。シートベルトをするしない無視じゃないか。
最初の曲がり角をドリフトした時点で私は死を覚悟した。
「ちょっと!」
「大丈夫! 間に合わせるから!」
そういう問題じゃない!!!
でも、これなら本当に余裕で間に合うかもしれない。今までのこと、話せなかったこと、いっぱいいっぱいある。全部話せるかな。
ーーーー私の気持ちも含めて……。
車と車の間を縫うように走っていく。アメリカのレースを見ているようだ。いや、元凶になってるのか。
そんな中私は見てしまった。
交番の前で驚愕の表情でこの車を見ている、警察の人を……。