5ー45
「それでいいの?」
「なんのこと?」
学校へ行くことの何がいけないのだろうか。私の目の前で弁慶が如く立つ彼女に言葉を返す。
「授業には出ないとさ。ほら、学生の本業じゃん?」
何か変なことでも言ったのだろうか。苦虫を噛み潰し味わっているような顔をした。
「早紀はこの物語の主人公だろ」
主人公……。なんの話だろうか。
「いつまで三人称な人生送るつもりだよ。神様にでもなったつもりかよ」
「言ってる事がよくわからないよ。私は私、一人称で人生謳歌してるに決まってるじゃない」
「なにが謳歌してるだ。
気になる人を諦めてむしろわざわざ付き合いたいだけで私たちに近づいてきたその子とくっつけさせて。でもその相手がダメ人間だったからって自分に罪を擦り付けて、悲劇のヒロインを救おうとして。その後本当の恋があることも、いつからプロットしてたんだか……。
はたまた昔から好きな幼馴染と親友が付き合っているって知って、大袈裟に避け始めて、挙げ句の果てに挨拶もしないでさようならだろ。
いつもそうだ。自分中心じゃなくて、絵理ちゃんやともちゃんが主人公のように菊川瑞希の小説がそうさせた。
お前はだれだ。菊川瑞希なのかよ!!」
出勤途中のお姉さん達が私たちの方を向く。そりゃ菊川瑞希がここにいたら誰もがサインを強請るだろう。
しかし、女同士の喧嘩であることを確認してから直ぐに改札を通って行った。
「私は私だ。ちゃんと考えてるし、しっかりと動いてる。他の誰かじゃない私が、そうしたいからそうするだけ」
「なぁ、早紀」
「なに?」
「いつまで主人公でないふりをするの?」