5ー37
「ぐっぅ!」
「絵理! 大丈夫か!」
「大丈夫だから……、動かないで、お願いだから……」
拳をさえ握れない。そんなことできない! そんな私が情けない。
「私なら平気だから。いいよ」
「そんなこと言われたって!」
「にーぃ」
やらなきゃ……。もう絵理ちゃんが……。
「ごめん!」
グーでともちゃんの顔を殴る。強くはできなかった。そんなことできなかった。
「さん!!」
2発目。
「ごはぁっ!!」
「絵理! 絵理!」
返答がない。まさか……。
「だめだよそんなに弱くやっちゃ。首が折れるくらい強烈なのじゃなきゃさぁ!」
教室の方から悲鳴が聞こえる。とうとう中にまで……。
「始めたかなぁ? はやく殴ってオレの下僕にならないと、大変なことになりそうだよねぇー」
なんで、私だけ……こんなっ。
「泣いたってムダだよ。ほら、にーぃ」
「はやく!!」
「むりだよ!」
「さーん!」
3発目。
唸り声さえ聞こえなかった。
生きているのか? 確認なんてできないこの状況でできることは、無事を願うことだけだった。
「早紀!」
わかってる。わかってるんだ。私のたった少しの勇気でほぼ全てが終わることを。
わかっているんだ。
「いーち」
それなのに、私は神頼みだけで、なにもしてあげられてない。結局1番無傷で渦中に居続けることしかできない。
「にー!」
「はやく!」
私は……!
私は……!
私は……!!!
殴る。
その感触だけが私の罪悪感を吹き上がらせた。
「うわぁぁぁああああ!!!」