5ー34
これだけ寄るとエンジン音で心臓が震える。唯一信じられる自分という存在を封印された感覚だ。不安が私を飲み込もうとする。
「生意気だな。相変わらず」
ゆっくり私の所まで来る。そいつを見て思わず後づ去りしてしまう。
「口は達者でも体は正直だな!」
下品な笑い声に呼応するようエンジン音をより大きく鳴らす。
私の目の前で立ち止まる。
「醜い顔だ」
一瞬で視界がぶれたと思うと、次には地面で視界が埋まった。
その後直ぐに走る左頬の激痛。
「快感だ! 快感!」
殴られた。と判断したと同時に髪の毛を鷲掴みされ立たされた。
「今のが前に殴られたお返しだ。そのまんま返すより、より快感だよ」
「離せよ」
「今日は誰も助けてくれる人はいないよなぁ。飯田の野郎は今頃飛行機に乗って、くその香川は内申にビビって出て来れないだろうよ」
「早く離せよ」
「どんな立場かわかって言ってんの? yes or no」
「話せ……ぐっ!!!」
お腹を突き抜ける様な痛みに息が強制的に吐き出される。
手を離されるとそのまま地面に倒れる。そのまま咳き込む。
「いい加減にオレのものになれよ。それで楽になれるのによ。ずっっっと拒むからこんなことになるんだよ」
また私の髪の毛を鷲掴みし顔だけを挙げさせられる。
「今からでも許してやるよ。オレの女になれ」
苦痛、屈辱、恐怖。
それを、はいの一言で解消される。
飴と鞭。
それを、絵理ちゃんにずっと背負いこませていたなんて思うと罪意識がふつふつと湧き出す。
さぞ怖かっただろうな。
それをどうしたら、許してもらえるだろうか……。
「はやく答えろよ!!」
また手が上がる。
来る……。