5ー33
「なに馬鹿なこと言ってんだよ!」
後ろからの声に振り返る。戻って来たちーちゃんが鬼の形相で私の近くに寄り、胸ぐらを掴む。
「後5分も待てないのかよ!」
「ムリだよ」
「なんでそうなんだよ! 自分の身がどうなったっていいって思ってんだろ!? そんなことさせねぇよ!」
「これ以上、私のせいで傷つく人を見たくないの!!!」
激情。体中が熱い。私、怒ってるんだ。
「あと5分、私が繋げばいいんでしょ。そうすれば無駄な争いは避けれるんでしょ」
「それこそ無駄な足掻きだ! いいからここに……」
掴まれていた手を叩くと身が自由になる。それを好機とちーちゃんの横を優雅に通る。
「もう……、決めたから」
そのまま入口まで行き、振り返らないで出ようとする。
「やだ」
手を引かれ止められる。
「まだなにも決めてないよ。……なにも、決まってないよ」
…………。
無言の圧力。
私も……、彼女も……。
決めることなんて、私にはできない。
ともちゃんの人生も、アイツの人生も。
自分だけで精一杯なのだから。
夢もなく成長もなくただただ誰かが引いたレールの上を短調に進むだけの私に、行き先を決めるなんてできないんだ。
せめて、死に際くらい決めたい。
そう、せめて……。
手を振り抜いた。
そのまま教室を出ていく。
皆、口々に私の名前を叫ぶ。止められないとわかっていても。
こわいな。
殺されちゃうのかな。
それともあれやこれやとさせられるのだろうか。
臓物を取られて身ごと売られてしまうのだろうか。
無根拠な推測。私の脳内を埋めてもなお足は止まらない。
上履きのまま外へ出て、顔を上げる。
「やっと来たね」
やっぱり怖い。できるなら、逃げたい。
それができないように黒い恐怖が私をしっかりとロックする。
ーーーー森谷雅美ーーーー
歪に笑うその顔は、この世を追放された悪魔のようだ。
「覚悟はできてんだろうな!」
震える体をなでおろして口を開く。
「あんたこそ、覚悟できてるんでしょうね」
宣戦布告。
地獄の開始。