5ー32
行けば、この迷惑行為が止まる……か。我が身を心配するより、これから増えるであろう被害者の身を考えてしまう。
それならばこの体……安いもんじゃないか。
「ダメだよ! 行っちゃダメ!」
私の腕を掴むともちゃん。相変わらず私の心を見透かしているようだ。
「警察来るから。それまで我慢して!」
横目に彼女を見る。視界に入る怯えた顔のクラスメイトが皆同様に頷く。皆で私を守ろうと団結している。
こういう友達ごっこがこんな状況を招いたのに。
「絵理! 大丈夫か!?」
こんな場面で颯爽と現れる我が校の王子が私を見て頷いた。
「伊藤さん……。ここで待っててくれ。絶対に行くなよ。オレが止めて来るから」
この場にいる全員が動揺する。
自殺宣言を聞いたようなもんだ。死体を生で見るように驚愕だ。
「え!? やだ! それなら私もついてく!」
「なに言ってんだ。絵理をおもちゃのようにして遊んでたやつん所にそれこそ行かせられないだろ」
ごもっともだ。
「やだ。行くなら行く」
「だから!!」
また悲鳴が上がる。今度はなにが起こった!?
「2人目ー。そろそろ飽きてきたから中に入る? み・ん・なぁ〜?」
バイクが高らかに吠える。
「くっそ! ごめん、絵理がここから出ないように捕まえといてくんね?」
「嫌だってば!!」
「大丈夫だよ。もう少しで警察来るから」
うつむく絵理ちゃん。そんな彼女を抱く。強く、強く。
「な、大丈夫だから」
「……うん」
2度、肩を叩いて彼は走り出そうとする。
「ちょっと何考えてるの?」
本当に、この女は何故こうも鋭いのか。
「何って、皆が幸せな方法をさ」
ともちゃんの腕をすり抜け、香川くんの前をわざと横切る。
「何、かっこつけてんのさ。足が本音を言ってるよ」
常に震えてる。口では一丁前だが足が本心を語っていた。
「ほら香川くん。絵理ちゃんのそばにいてあげなよ。その代わりに私が行くからさ」
「ちょっと待てよ! それじゃ伊藤さんが!?」
「私は大丈夫よ。だって、もう少しで警察が来るんでしょ?」
こんな状況になってから早くも20分。警察の来る気配なんて全くない。そのくらいわかっていた。
「将来があるんだからさ。香川くんを傷物にされたら、私が悔やんじゃうよ。世界の香川を私が潰したって」