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今日いないと思ったらこんな事をするために休んでいたのか。
轟々とバイクを吹かす。地響きが起こっていると錯覚するほど鬱陶しく。
「伊藤早紀ちゃーん!! 早く出て来ないとぶっ壊すよ!? ひとりずつさ!!」
ハウリングする高笑い。
黒い集団の先頭で不気味に笑っている男。私を名指しするその狂気にも、私は案外冷静だった。
「こら!! なにをしてるんだ!!」
国語の教師が大声を出して黒い集団に近づいていく。それが危険な行為だって誰もがわかっていた。先生を引き戻そうとあちこちの教室から声が上がっている。
「あれ? 先生じゃーん。皆心配してるよー。期待に応えなくちゃねー」
やれ。
拡声器を通さない声が脳裏を過ぎった。
それは刹那の出来事だった。
数人の黒に押し倒され、殴る蹴る。
それが私の見た初めてのリンチというものであった。
悲鳴。
次に見えた先生はこちらの声にも反応せず動かなかった。
「ほらー、早く出てこないからー。伊藤早紀ちゃーん? 次は誰をやって欲しい? いいよ誰でもー。オレは早紀ちゃんがいいけどね!!」