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5ー28
授業でも文字が書けなくなっていた。少しだけ期待していたから尚更ショックを隠せない。
文字を表現できない。
創作者にとってこれほど苦痛はない。ダンサーが踊れなくなったり、野球選手がバットを振れなくなったり、バイオリニストが弓を握れなくなったり、とにかく嫌なことである。
昼休みまで後1時間と言ったところか。教室の前の方にある時計を確認して頬杖をつく。
お腹が空いた。
早弁組の香りに誘われて辺りを見回す。
なんか静かだと思ったら不良グループが総出でいない。このクラスだけしかわからないがこりゃどこか遊びにでも行ったのだろうか。
視線を前に戻そうと目だけをスライドさせる。
すると彼女が目に入った。
3人で何やら相談をしているようだ。
いや、私の悪口か?
冗談はさておき、何故あんなに暗い表情をしているのか。誰か事故でもあったのか。
「……私から行く。やっぱり、私が原因だし」
彼女の目がこっちを向く。直ぐに視線をずらす。
何してんだろ私。
これじゃ、私が全部悪いみたいじゃないか。
いや、本当は私が全て悪かったのかもしれない。