5ー25
ふと冷静になり、彼から離れる。
「その、……」
つい吃ってしまう。いつも通りでいいのに、一言でいいのに、私はそれ以上の事を望んでしまっている。
しかし、それにはあまりにも準備不足だった。
不意に彼の手が私の頭に触れた。優しく撫でる仕草を嫌がるが、離してはくれなかった。
「やめてよ」
「いいだろ。気合い入るんだからさ」
何を訳のわからないことを言うのか。
視線を上げる。その眼差しは余りにも気合いが入り過ぎていて、直ぐにでも壊れてしましそうだった。
「……頑張れよ」
「おう。もちろんだ」
爽やかなハニカミが愛おしく思う。
離したくはない。渡したくない。私のものだったそれ。
頭を撫でる。背伸びをして仕返しと言わんばかりに優しく。
紳助ならできる。
頑張れ。
頑張れ……。
それを言葉にできたらよかったのに。なんて私は弱虫なんだろう。
「ありがとう」
「うん」
彼は後ろを向くと車に乗り込んだ。
彼の乗った所の窓が開き、手だけが出てきてピースをしてきた。
手を振る。発車した車に、曲がるまで見えるように大きく。大きく……。
姿が見えなくなると、激しい鼓動を叩いていた心臓に手を当てた。
苦しい。なんだろうこの感覚は。恋なんだろうか。これが。
お母さんが肩を優しく叩く。
大丈夫だよ。
私にそう諭すように。