5ー16
「っえ?」
『秋雨』の遺書より。私は目をつむる。
「そんなに心配しなくていいんじゃないかな。絵理ちゃんは香川くんの事が好きだからさ。
香川くんが一度は諦めたサッカーの道も、今は部長にまでなってやって、プロの夢ももしかしたら叶うかもしれない。それを今子供ができて潰しちゃうなんてきっと自分が許せなくなると思うんだ。
だから香川くんが夢を叶えるまで、その時までずっと待ち続けるって考えてるんじゃないかな」
彼女が遺書に託した本当の意味。死んでもなお、あなたのことを待ち続けているという意思。
秋雨が降った時だけでいいので、ずっと待っている私のことを思い泣いてください。一瞬でもいいから……。
「そうだよな……。ありがとう。変な相談しちまったな」
「ホントよ。今度なんか奢ってよね」
「おう!」
爽やかな顔に戻り、颯爽と消えていく彼を見て青春の意味を知る。純粋だ本当に……。
ぽた。
手に水が落ちた。
雨かな。
空を見上げる。綺麗な青空だ。冬の澄み切った空。
「ねぇ、オウギ。なんで私は泣いてるの。たまには答えてよ」
眠っているのだろうか。オウギは何も語りださなかった。