5ー15
「いや、本当はそのつもりだったんだよ」
適当な相槌を打って、先を急がせる。
「親が気を利かせて家を留守にしてくれたからさ」
そんな親は逆に嫌だと思うのは私だけだろうか。
「家に呼んで、2人でクリスマスパーティしたんだよ。それでなんやかんや楽しい時間を過ごして、さぁ寝ようってなったらさ。『変な気起こさないでね。まだダメだから』って」
いや、そうだろ普通。あれ? そうでもないな。
「俺、そういう対象で見られてないのかなぁ」
個人的にはそう言って置いても強引に押し倒して欲しいものだが。
……なんてそんなことも言えないので、
「いや、むしろ真剣に考えてるからなんじゃないかな?」
まともに回答してみよう。今は伊藤早紀ではなく、菊川瑞希として。
「今子供ができたらって心配、自分じゃなくて、絵理ちゃんがしてるって事で違わないかな?」
「そう。俺は今子供できてもなんとかするって思ってるんだけど」
それはそれでどうなのだ。やはりスポーツ選手はおつむが弱いのだろうか。
「私だったらね、もし香川くんの事が好きで本気で一生を過ごす覚悟をしているんだったら、今ある香川くんの未来を潰してしまうかもって考えると思うんだ」
オウギを見上げる。今日はやけに静かだ。まるで寝ているかのように。
「あきあめつづればまたぢもゆるみ、あきぬほろほろのつゆはまだきみのほほぬらしつづけよう」