5ー12
「……え?」
聞かれた……?
そう思うと恥ずかしさとどうしようもなさで涙が止まる。
どうしたらいい。弁解するべきなのだろうか。今のはただのジョークだって言えば済むだろうか。
「どうしたんだ? こんな寒いのに」
「え、あ、えーっと」
聞かれてない?
混乱の中、必死に次の言葉を探す。
可もなく不可もなく、いつも通りの言葉。
「早く寝とけ。ココア飲むと落ち着くぞ」
そう言って差し出すコップからは湯気が上がっている。
「行き先がわからず足元しか見えないのであれば、まず立ち止まってみろ」
「……誰の名言だよそれ」
「誰だっけなぁー。外人だった気がするけど」
貰うか悩んでいたコップを受け取り、やけどしない様に飲む。
含んだ瞬間に広がる香り。喉を通ってほっと息を吐く。
とても甘く、濃厚で、優しい味だった。
「どんなに苦しくても、誰からも認められなくても、それでもやらなければいけない事なんてたくさんあるんだから。もっと気楽にしてた方が、かえっていいかもよ」
コップを突き返す。危うくこぼしそうになるも辛うじて平気であった。
「私に説教かますより、自分に喝でもいれなさいよ。そんなことじゃ合格なんて無理よね」
「ご忠告ありがとう」
相変わらずだな。さっきまでの心配が薄くなる。このまま終わらせてしまえばきっと聞かれていても有耶無耶にできるはずだ。
窓辺から離れて窓を締めようとする。
「辛くなったらいつでも言って来いよ」