5ー11
新聞のニュースの欄には私の小説が大々的に宣伝されていた。
12月もそろそろ後半になる頃だろうか。やっと書き上がったこの物語。初版もかなりの見積もりである。前回の2倍、は言い過ぎだが2割は増やしたと言われた。
私的には減らして欲しかった。
その訴えは直ぐに読者の反応に出た。
『今回は全然面白くない』
『ゴーストライターに裏切られた』
『最低の出来』
窓のところで体育座りをし、壁に背中を付ける。そこで携帯を使いSNSから感想を検索していた。
これは辛い。想像以上に冷たい意見だ。
締切に合わせて無理やり創り、辛うじてOKが出たのでダメ元で打って見た。
これは…………辛い。
溜め息……。
立ち上がって窓を開ける。真冬の痛いくらいの空気がお風呂上がりの体を一気に冷やす。
溜め息。
それは白い煙となって私から出ていく。
不安と不服と不甲斐なさと悔しさと、そんなものが出ていっているような気がした。
目の前の家の窓は閉められている。明かりが点いているということはしっかりと勉強しているのだろう。
後1ヶ月で試験。
私ができることは邪魔をしないことくらい。
聞けば判定がBにまで上がってきているとの事だ。
「がんばれ」
直接会って言ってあげたいけど、それもできない。いや、しちゃいけない。
私の未完成の小説を読んで意味のわからないいちゃもんをつける。
それをずっと待っている。
勉強をしている振りをして私の小説を読んでいて欲しい。
今にでもその窓が開いてその感想を言ってくれるのを待っている。最低だね、の一言を待ってる。
くそ、くそ!
泣いたって、そんな願い叶わないのに……!
大切なものは失ってから気づく。そんなことわかっているつもりだった。
こんなに近くにあるのに、触れられる場所にいるのに、どうして、どうして……。
2人っきりの時間を思い出す。淡く儚い、まるで夢のような時間。
何回も言えなかった言葉。
小説に込めていた言葉。
彼には一度も言えないで一生を終えるのだろう。
それなら、今ここで言ってしまえば落ち着くんじゃないか。
絶対に聞こえない。大丈夫。これで、終わりにしよう。自分の未練を。
「好きだよ……、紳助……」
急に窓が開いた。