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「相変わらずたぶらかしているな」
「人聞きが悪いな。彼女たちが近づいて来てるだけだ」
「ひとりくらい彼女にしないところがたぶらかしているんだよ」
彼は私の前の席に座り机の上に足を投げる。
「いいだろ。まだあの感触を失いたくないだけ」
「うるさい黙れ」
急激に体が火照ると共に嫌な記憶が電流の様に頭を流れる。
「それこそまやかしだ」
「あっそう」
豆乳を飲み干す音が響く。それが途絶えるとまだ雨足を弱めない音がドンドンと窓カラスを叩く。
「ホントにわかるのか?」
「なにが?」
パックを私の机の上に投げる。受け止めず転がり落ちるパックを眺める。そして立ち上がる彼を見る。ニヤリと意地悪く笑う彼に私は鼻で笑う。
「そろそろ練習戻るわ」
「雨なのにご苦労なことで」
「練習しないと怒るのは誰だよ」
「しらない」
ニヤリと笑い返すと彼は私を一瞥して教室から出ていった。
雨足が急に弱り始めた。私はアイデアを忘れないうちにスマホに書き、その内容をパソコンにメールで送る。
窓辺に立つと夕日が見える。どんよりとした雲はその厚みを削り、雨も大きさを抑える。それが虹になることは容易に考えられる。そう、小さな虹だ。
「あの虹の先に何があると思う?」
誰もいない教室で呟く。美しく七色を描くその無象に私は見入る。半円の帯に暮れる後光がさし、見える町並みを見下ろしている。ここにいるぞとばかりにその虹は強く儚く輝いていた。