5ー10
「好きな人がいる。でも、その人には彼女がいる。しかも、私の大親友。はじめは応援するつもりだった」
独り言の様にオウギに話しかける。私の問いかけには絶対に答えないオウギ。それでもよかった。
「でも、その彼女は奪って欲しそうに私を煽るの。好きだって言ったことないのに、私の心を透かしてみているようで……。私には理解できなかった。何を望んでいるのか。何を企んでいるのか」
遠くでトボトボと校舎に戻る絵理ちゃんの姿が見える。この距離でも泣いている事が良く分かる。
「それに腹が立って怒っちゃった。逆ギレ的な感じ。悪いとは思ってる。でも、許してもらったら、許したら、彼女から彼を奪う様な気がして、そうしたら自分が許せなくなる気がして……」
そんな絵理ちゃんに気づいたのか香川くんが近づいていく。その瞬間に女性の群れが崩れていく。
なんでもそうだろう。好きなタレントが結婚した途端に好きじゃなくなる現象と一緒である。
「でも、好きなの。私の小説のヒーローは必ず彼だから」
風が吹く。木の葉をはらはらと鳴らし木漏れ日を揺らす。
私の膝の上に落ちてきた紅色の木の葉。拾い上げて空を見上げる。
オウギがにっこり笑っている気がした。
『がんばれ』
そう言われているような気がした。