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5ー9
誰かの視線を感じる。寒気。嗚咽感。
視線を尖らせて後ろを振り向く。物陰に消える人影。誰だ。
「絵理ちゃん。ごめん。先戻るからね」
返事も見ず、その人を追う。遠目からでは誰かを判断することもできなかった。ただ、なんとなく見られてはいけない人の様な気がした。
角を曲がる。グラウンドには相変わらず多くの女性が群がっている。女のそういうところは私にはよくわからない。
そのいつもの風景が余計に悔しくも思う。私の探している人影がどこにもないからだ。
もしかしたらあの群れの中に隠れているのかもしれない。そう思って近づいてみても知っている顔もない。
「気のせいか……」
過敏になりすぎているのか。
なにに?
私はなにに過敏になっているんだ?
オウギの近くのベンチに座る。見上げればオウギの葉がそろそろ色付こうと日光浴を精一杯している。綺麗な色を毎年魅せてくれるオウギに少なからず嫉妬を覚える。
「ねぇ、オウギ。私の悩みを聞いてくれないかい?」
オウギは何も答えずただ遠くを見ていた。