5ー5
あの一件からずっとこうだ。トランプのハートの7が欠けたような、歯車が噛み合わないような、チェスのポーンが1つないようなそんな感じなのである。
何かが足りない。
胸にぽかんと大きく穴が開いたようだ。何かを求めている。刺激を欲している。
また紙をくしゃくしゃにして投げ捨てる。
「やってられるか!」
席を立ち部屋から出る。お腹が空いた。
とは言ってもまだ、そんな時間ではない。居間でソファーに座り付いているテレビを見る。
なぜか適当にテレビを見ると私の小説を片手に嬉しそうに話すコメンテーターを見て、嬉しそうに私に話しかける母。まるで我が身の事のように語るものだから少しばかりムカつく。まぁ、右から左へ受け流すけど。
美味しそうな匂いが鼻をくすぐると、画面からSNSの書き込みをそのまま写したテロップが出る。
『私も好き! 全巻持ってる!』
『いつも泣かされてます。次こそは泣かされないぞ』
『最近友だちから借りて読みました。他の買おうかな』
次々に出てくる読者の声。まだ、まだ頑張らなければ。私の物語を待ってくれてる人がいる。
ご飯が出来た。私は直ぐに席を変え、ご飯に手を付ける。