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5ー3
教室に戻ると直ぐに視線を感じた。
毎度の事に苛立ちを隠せない。小さく舌打ちをして窓際近くの椅子に座る。
おもむろにメモ帳を取り出してこの場所から見える教室の風景を描く。時間の許す限り鮮明に細かく。雑念を取り払うまで。
チャイムと同時に描き終え、次の授業の準備を始める。
どうせつまらない授業の時間。私は物語でも考えながら黒板の文字をノートに書き写していく。
前の物語は却下が出た。修正に修正を施しても、もはや収集がつかない状態であった。
こんな物語を私として世に送り出すのか、それとも菊川瑞希として世に送り出すのか。
そう担当の人に問われた時に菊川瑞希のネームがどれほどの価値を生み出しているのかがとてもわかった。
自己満足も出来ない物語をムリヤリにでも作り上げようとした私のエゴは完膚無きまでに砕けちったのだ。
完敗した気分だった。
次回の出版を遅めるよう上司に伝えるから、ゆっくり自分らしい物語を考えておいて、と慰められた。