4ー40
「皆必ずそう言うんだよ。人の気も知らないで、想いも知らないで、過去も、見えてる物も、感じてることも、味も匂いも痛みも喜びも苦しみも何もかも! 知りたいからなんて綺麗事並べて相手の傷を抉る。押し付けられる方は堪んないよね。吐き気を感じながら、苦しみを感じながら、悲しみを感じながら、赤裸々に語らなければいけないなんてさ。片想いが実った、その人とやることはして、愛し合って、充実してる人とは違うの。わかる? その差。それを等価交換だなんて、言えたもんじゃないでしょ。何がわかるのよ、何が……」
服を強く握る。今にも出てきそうな怒りを制しながら紡いだ言葉なんて、結局は偽りなのに。私はそこに言葉を乗っけた。
「違うの」
「何が違うのさ」
「紳助のこと、好きでしょ。早紀も」
「うるさい」
「ねぇ、なんでよ。なんでそんなこと言うの」
「私が好きだったらなんだって言うんだよ!!」
大きな声を出してしまった。直ぐに後悔するが、頭に登った血は直ぐには降りてこない。
「先輩には好きな人がいる。それが親友で、今までずっと片想いしていた人に勝ち誇ったかのように言って、それで今度は私に好きかどうか? 嫌味だよねホントに。ホントに!」
「違う……」
「どこがさ!! なにが違うのさ! そう言ってるようにしか聞こえないよ!」
「だから」
「もうなにも聞きたくない! そんなこと言う人とは思わなかった。親友なんて思ってた私が……バカだったよ!!」
「ねぇ! 聞いて!」
うつむく。何してんだろう私。冷静に感じるが後戻りは出来なかった。潮風が意味深に私たちの間を抜けていく。
「絶交だよ……。もう、無理」
彼女を突き飛ばして駆け出す。階を降りて1階に向かい玄関から飛び出す。街灯なんてほとんどない道を月明かりだけを頼りに来た道を戻っていく。
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
心が揺さぶられない訳じゃなかった。
何してんだろう私。
後悔が涙となって流れる。
それでも元には戻らない。