4ー39
これ以上、思い返すのはやめよう。臭いものには蓋をしろ。もう2度と思い出したくない。
いつの間にか太陽は沈みきっていた。灯台の灯りが船の道しるべとして機能し始めている。
夏と言う事を忘れさせる程に夜風が体を冷やす。肩をさすりながら溜め息を吐く。暑いのも嫌いだが、寒いのも嫌いだ。気温と湿度に苦なく過ごしていたい。
振り返った。部屋に帰ろう。心配させているかもしれないし。怒っていたことさえ馬鹿らしくなっていた。素直に謝ってこのお泊り会を楽しもうじゃないか。
戻ろう。視線を上げる。
「えっ」
吐いた息が声になる。そこには息の荒いともちゃんが私を今にも泣きそうな目で見ていた。
まさか、ずっと私を探していたのか?
こんな、私を。
「ごめんなさい!」
言葉の意味を理解することが困難だった。何を謝っているのか。
「私、早紀のことも考えないで……」
そんなこといつものこと。他人に対してはいつも自分の事しか主張しないのが女というものである。
「だい……」
「早紀に、なんでも知って欲しいんだ。変かもしれないけど、私のことを全部」
私の言葉を遮ってまで、それが言いたかったことなのだろうか。まるで告白じゃないか。
小っ恥ずかしく感じるとともに、アホらしく思う。
日本では同性愛は認められていない。それを知っていてなのか。
「だから……っておかしいかもしれないけど、早紀の全部も知りたいんだ。楽しいことも、苦しいことも、悲しいことも、怒りも、なんでも共有したいんだ」
目をつむる。怒りを抑えるために。
「勝手なこと言うんじゃねぇよ」
「そんなに苦しそうな顔見てられない」
「なにがわかんだよ」
「わからないから知りたい」
「なに都合のいいことばかり」
「ねぇ! 早紀!」
「……」
目をあける。