4ー38
「ばかやろう!!!」
腕を引かれた。ほとんど落ちかけていた私の腕を。
「なにしてんだよ、早紀!!」
両足に地面がつくと同時に振り返る。
「しんちゃん……」
まるで私のために生きている彼はまた私のためにそこにいる。
「しんちゃん……」
恥ずかしくて、嬉しくて。寂しくて、苦しくて。
我慢していたそれが、爆発する。
感情の雪崩に飲み込まれて身動きができない私を彼は優しく抱き寄せ、ビショビショの頭を優しく撫でてくれた。こんな時間が、永遠だったあの日々に私は戻りたかった。
いつしか雨もやんでいた。ひとつだけある木に寄りかかり、私が落ち着くのをただひたすら待っていた彼が口を開いた。
「虹だ」
顔を上げて短く指さした彼の示す方を見る。
曇りと晴れ。その景色には不釣り合いなほど、鮮明でくっきりと見える虹が私の目の前に映し出された。
魅了される。モノクロの世界に無限の色が写って消えない。
光の帯を撫でるように1つひとつを指でなぞり、その輝きをしっかりと記憶していく。
「ねぇ、早紀。虹の先にはなにがみえる?」
「え?」
「オレにはね……」
そう言って口を閉じる彼に顔を向ける。あまりに不自然で、あまりに恋しくて……。
唇と唇が交わる。
唐突に、突然に、温もりが私の体を染めた。拒むこともせず、ただ彼が求めるようにその行為に目をつむった。
長い長い時間。まるで永遠が続くかもしれない。そう思わせるように、私を優しさで包む。
永遠なんて誰が歌ったのだろう。
ーーーーそんなもの、どこにも存在しないのに。
波の音が私の記憶をさらっていった。
もう、2度と思い出したくない記憶なのに、どうして幾度となく私を苦しめるのだろうか。
そのあと、彼がどうなったか、忘れた訳じゃないのに。