4ー36
また読めと言うのだろうか。全くこりない人だ。
「だーかーらー」
「ホントにそれでいいの?」
そう言われて思わず彼女の顔を見てしまった。その目はまっすぐ私を見つめていた。嫌な目だ。まるで私を見透かしているような目。
「嫌いなものは嫌い」
ルーだけを口に運ぶ。
「いつでも貸すからね」
急に味がなくなったんだ。さっきまであんなに美味しかったのに。盛り上がっていた気持ちも何処へやら行ってしまった。
急いでカレーを飲み込み1人先に席を立った。
「ごちそうさま」
「ちょっ! 早紀ちゃん! なに!? どうしたの!?」
「ひとりになりたい気分」
「え? ちょっと待ってよ!!」
早足でその場から逃げる。
なんなんだよ。あの目は感染するのか?
大人が子供を見下すような目。
金持ちが貧乏人を嘲笑う目。
政治家が老いたおじいちゃんを見るような目。
大学教授が工事現場の人を見るような目。
なんなんだよ! あの目は!!
更に上の階に上がれるようだった。暗くなりつつあるこの空間を躊躇い無く進む。
行き着いたのは、お洒落なテラスだった。
ガラス扉を開けて外に出ると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
夕焼けと闇が海を割るように美しく色づいていた。境目。人によっては様々な色に見えるそれ。瑠璃だったり葵だったり、碧だったり。
私はそんな感性はない。緑だ。
その色をなぞる。あの時、七色の線をひとつひとつなぞったように、その色だけを上手く指を押し当てる。
その後何が起こったのか思い出した。
すぐにやめる。
私はバカなのか。なんでこんな時にまであの時のことを思い出してしまうのだ。
あの日からだ。私が、私が、私が自分の気持ちに蓋をしたのは。