4ー35
ふわっといいスパイスの香りが私の涙を止める。
「美味しそうな匂い」
「なんで泣いてるの早紀ちゃん!!?」
「タマネギー」
「あ、タマネギ入れたいかも」
「わかったー」
そもそも何故ルーを先に作ってしまったのだろうと思ったがレシピ通りらしいから仕方がない。
レシピ通りに食材を入れ、美味しくなれという魔法の呪文を唱えながら混ぜること15分。
既に飽きてヨガをしているちーちゃんを呼びつける。ご飯の時間である。
「そう言えばご飯炊いたの?」
「あ」
「え?」
「嘘でしょ」
カレーにライスがないなんてそんなもの私はカレーとは呼ばない。ただのスープだ。主食ではない。
「と、思わせておいて、どーん」
絵理ちゃんがそう言って開けたのは炊飯器だった。
「私の手にかかればご飯なんてちょちょいのちょいよ」
決め言葉を吐きながらお皿にご飯を盛っていく彼女の顔は若干照れていた。
人数分のカレーライスをテーブルに並べ、みんな大好きな音楽番組のラジオを流す。
「よっしゃ!! できたぜ!」
「なんもやってないでしょうが」
各々好きな飲み物をコップに注いで席に着く。
「細かいことは気にしないで」
「今日それしか言ってないし」
「いただきます!」
その掛け声は各々の性格を器用に表した。こんなに揃わない号令もなかなか風情があった。
そこに急に流れる恋愛ソング。
甘酸っぱく、疾走感もあり、まるで人が音に合わせて人生を紡ぐようなそんな感情の高ぶり。
言葉だけでできれば、文字だけでそういう風にできたら……。
「ラジオネーム、泣き虫さん。最近流行りの『椛枝』という小説を読んでみました。娘が読み終わったのを借りたのですが、読む前は正直子供っぽい小説だと思っていました」
急に振られたその言葉に私たちの耳はラジオに傾いた。
「読んでみたらそんなことありませんでした。子供たちが段々と大人の階段を登っている途中のお話のように感じました。むかしの自分を連想さるような。次は私が買おうかななんて」
木っ端ずかしい。なんだろうかこのもどかしさは。普段は聞けない生の声を聞いてしまった。物凄く褒められている。
「だって早紀ちゃん」