4ー33
近くにあったビニールボールを投げつける。ちーちゃんはそれを上手くレシーブする。それをともちゃんにトスしたのは絵理ちゃん。そして、スパイク。見事ちーちゃんの顔面に当たる。
プールに沈んだちーちゃんを見てハイタッチをする。
笑い合う。みんなで。みんなで。
プールから上がり髪を乾かしながら海岸に一番近いサイドに向かう。
潮風は真夏の空気を和らげてくれる。心地よい。
海が広い。童謡にもあるその言葉は人の気持ちを大らかにするには十分だった。
大きな溜め息を吐く。
「どうしたの?」
「ん? どうしてもないよ。ともちゃんこそ、どうしたの?」
私の隣に来て同じ方向を見る。
「早紀に言いたいことあったんだよ」
「なに?」
遠くで警笛が鳴る。今でもあるのかな。こういった、古いシチュエーション。
「今回の菊川瑞希の新作。『椛枝』すごくよかった」
「……そう」
「また読んでないの?」
「私、恋愛小説嫌いだから」
「もったいない」
振り返ってプールを見てみる。スポーツマンの魂に火がついたのか、2人は競争しているようだ。
「貸してあげようか?」
「いいよ。次はSFがいいから」
「また、そんなのばっかり読んでー。キュンキュンできるよ?」
今の私にとって、最も足らないもの。そう、そういった感情。
「キュンキュンねー」
してみたいよ。本気で……。
プールに飛び込む。荒んだ感情を洗い流すために。