4ー29
「いい加減離せ!!」
拘束されている手足を振り回すが宙を掻いているだけで、押さえつけるためか胸に当たっている手に力がこもってきていた。
そんな死にたいほどの屈辱手前の状態が解放される。あまりに唐突で何が起こっているのかわからなかった。瞬きを繰り返す。目を擦ってその先にある光景に偽りがないのかを確認した。
私の目の前に広がったのはブルーマリンと言ってもいい程、美しい海の雄大な懐。ギンギラと降り注ぐ七色によって輝く煌びやかな光景だった。
「すごい……」
言葉が出ない。こんな地上デジタルの映像でしか見たことない絵がそこにはあるのに上手く例えられない。それを悔しく思うが、それでも霞まない風景にただただ感銘していた。
「おいでませ!」
その映像の中央に降り立ったちーちゃん。
「私たちの秘密基地へ!」
「いいね、その響き。秘密基地」
楽しそうにキャピキャピとしている絵理ちゃんがその隣へ着く。
「私は絶対に突っ込まないからね、うんうん」
ともちゃんもワクワクを隠しきれていないのか冷静を装うが声色は明るい。
……相変わらず、訳のわからない事をする。うつむき、そう思いながら私は笑っていた。
嫌いじゃない。どうせなにも決まっていないのだろう。出たとこ勝負な感覚で計画するのはいつものことだろう。
明日の打ち合わせなんてほっておこう。もう、現実逃避も受け入れる! 今は皆と一緒に楽しみたい!
「ほらほら! 集合写真撮るよ!」
既にセットされている一眼レフ。ちーちゃんは持っている無線のシャッターで私を呼ぶ。
「はいはい! 待って!」
私たちの夏。最高の夏。そんな予感が感情を高ぶらせる。
シャッターが切られた。これが私たちの夏の思い出になるだろう。間違いなく。
そう、最後の夏の……。