4ー27
降り立った瞬間に潮風の匂い。夏の猛暑が降りかかっていてもここだけは心地よい空間であるようだ。
「佐々木さん! バイバーイ!」
「あ! ありがとうございました!」
振り返ってこっちを見て手を振っているおじいちゃんに深くお辞儀をし、釣られるように駅を出ていった。
この場所には浜がない。全てが崖である。崖の上は緑で埋め尽くされている。その合間合間を使ってペンションが崖沿いに並んでいる。そう、ここは避暑地であると共に秘所地であるのだ。
「どうして? なんで? 思い出?」
ただ私にはなにも結び付かない。海沿いの避暑地で思い出作りなんて、アニメで言えばお金持ちの友だちの別荘でひと時の夏を楽しむ、そんなレベルの話になる。
「んー、例えばさ、誰かが貸してくれたとか?」
何をだ、と言いたいところだがなんとなく察する事が出来るのが嫌である。
「もしかしてさ、後2人来る?」
「お、ご名答だね。ただ、来る訳ではないよ」
車の走らない道路。片道は木が生い茂り、片道は海に曝されている。その木の陰に身を置きながらずいずいと進んでいく。
ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、様々な音楽を歌う虫たち。それはイヤホンの音漏れの様に鬱陶しいものであった。
「んー、憧れである白い少女的な服装にしてみたけど、案外暑いのよねこれ」
「うん、白い少女ってなんだい?」
そう聞くと鬼の形相の様なものを私に向ける。
「白く透けているワンピースにひまわりのワッペンが着いた麦わら帽子! もはや夏の女の子と言ったらこの格好でしょ!」
あ、今鹿が見えた。
「ねぇ! 聞いてた!? ボクの言葉!」
「あ、聞いてたよー。それで後何分?」