4ー18
重たい溜め息を吐く。自宅近くの喫茶店で1人、甘いミルクティーを目の前にしてその場にいた。テーブルの上にはミルクティーの他に飲み干されたブラックのコーヒーがあった。
私の手には赤で様々な直しが加わって返ってきた小説。
今までこんなことなかったのに……。
また溜め息を吐く。映画などでよくある天才が壁にぶつかると当分は脱出できない魔のスランプ。そんな感じであった。
「どうしたの。全然らしくないよ」
なんて言葉を貰っても言い返せない。確かに私らしくない。今までは物語が意図せず自然と進んだのにも関わらず、これは全くそんなことなかったのだ。
筆は乗った。殴るように書いたが見直せば支離滅裂。矛盾を否定しながら書いたがそれがどうやら矛盾を生み出し、結局手がつけられない状況だった。
この赤を直しても、きっと酷い出来になる。ペラペラとめくりながらそう感じた。
早く帰ってさっさと書き直そう。ミルクティーに手をつけず紙をバッグにしまって席を立つ。
とぼとぼと帰路を行く。晩御飯を買いに来ているのかお母さんたちが猪突猛進といった風にスーパーに入っていく。賑やかな時間だ。
それでも、周りの音なんか気にせずにただ落ち込んでいた。
私、やっぱり向いてないのかなぁ。この仕事。
また、溜め息が出る。そんな自分が情けがなく感じた。
「溜め息吐くと、幸せも逃げるよ」
ぽんと肩を叩かれる。
「きゃっ!」
心臓が飛び出るかと思った。急に後ろから、知った声が聞こえたのだから。
「な、なに! ってか誰!」
振り返る。顔を見ても直ぐに誰だと思い出せない混乱状態だった。
「え? 私わたし」
笑われながら自分を指差す黒髪の彼女にお決まりの様な言葉を出す。
「詐欺なら私の名前知ってますか!?」
「え? さきちゃん」