4ー14
「なにが、見えるって言うのさ。あの先にさ」
ひとり呟いて溜め息を吐いた。未だにわからない問題をひとり抱え込んだままのようだ。
幾分か明るくなってきた。雨ももう止むだろう。
急にくる空腹感。この場で食べてもいいけど、濡れた場所に座るのはさすがに抵抗があった。帰ってお弁当の続きでも食べるか。
踵を返した。そんな時、
「なにか見えたかい?」
視線の先には予想もしなかった人が居た。
「どうした? お化けでも見るような顔をして」
動揺を隠すように目を閉じる。そしてまた雨の世界を見る。
「情報だと、今日はいないはずだったからさ」
面白くなさそうに彼は肩を竦める。
「良く分からない情報網だね。教えてくれたのはきっとおとぎの国のリスみたいな女の子からだろうな」
そう言って私の隣に立つ。
「お、虹が見えるんだね」
無邪気に言う。まるで私を貶める様に。
「私には何も見えないよ」
そう、何も……。
そんな自分を認めるのが嫌で呟いて歩き出す。
「朝露の呑まれる空気に色楓、夕闇に潜む椛の哀しさや」
それは、椛枝の双独唱だった。その言葉に釣られて私は振り返る。
「まだ夏だよ」
止まった私を見て嬉しそうに笑った。
「俺の心を秋にしたのは早紀だろ」
「そんなの知らないよ」
彼はまた虹を見る。まるで、あの時の様に。
「虹の先に何が見えると思う? 早紀」
急にふわっとした気持ちになる。重力がなくなったように世界が不安定になる。
なんでここでまたそんなことを……。
「虹の先なんかに、何もない」
「その心は」
大喜利かよ。
「色とりどりのアーチを潜っても、その先の色がそんなに明るいとは限らない。夢みたいな未来を描いていてもその先は夢の様なものとは限らない」
彼は一歩づつ、私に近づく。
「それが、答え?」
「そう。5年間悩んだ答え」
彼は小さく頷いた。