4ー13
タンポポを目で追う。東の空は実に綺麗な晴れ間だった。
再びの風。西から吹き付ける風はどこか湿気を帯びていた。遠くでフリスビーに夢中だったゴールデンレトリバーが西を向いて吠え始める。
来る、雨が。
たこさんウインナーを1つだけくちに加えてお弁当箱を閉じてカバンに戻す。
高い場所へ行かなければ。
私は来た道を戻る。急な坂を上り住宅街を抜け、丘の上へ向かう階段を駆ける。その途中に、誰も知らない秘密の抜け道がある。昔はここを走って通っていたが、その様にスムーズには進めなかった。
走った。疲れた。空腹なんて忘れた。
息なんて上げたまま、手すりのギリギリまで体を持っていく。目の前に広がる街の光景。そしてその奥にはドンと立ち上がった積乱雲が今まさに街を喰らおうとしている。
鳥の大群が西から東へと飛んでいく。
もう、来る。
私は赤い傘を広げる。
暗くなる世界。唸りをあげる神様に私は1つだけお願いごとをする。虹が見えますように、と。
気が付いたら、大雨だった。傘に当たる雨粒の音はまるでビー玉を大量に落とされている様な音だった。傘から伝え落ちる水は滝の如く、遠くに見える雷は青龍の如く、この水墨画の世界を色付かせる。
何時、晴れるのか。何時、虹が見えるのか。傘を握る手は痛いほど強く握っていた。瞬きをするのも忘れそれを待つ。
それは急に色を放つ。
「見えたっ!」
その瞬間、私は虹よりもその先を見る。アーチの奥。何が見えるのか。何が映っているのか。瞬きも忘れて見続ける。
しかし、なにも見えなかった。