4ー6
パソコンを閉じる。歓喜に包まれたままのテンションでいたい。自分の心が踊れと言うくらいのテンションで。
だがしかし、耳を澄まさなくても鬱陶しいほど聞こえる夏を呼ぶ声にテンションを下げられてしまう。歌劇「トスカ」の有名なシーンであるトスカが飛び降りるその高さ並の暴落だ。
それを体で表現するのであれば、溜め息を吐く、であろう。とりあえず息を吐いておく。
自分の部屋から出る。あの鬱陶しい音の他に、スイカが切られる音を耳にしたからだ。
居間に顔を出す。お母さんが自分だけで食べようとスイカのハーフをさらにハーフにしてそれを食べやすい大きさに切っている所だった。テレビも付けていてテーブルには麦茶。これから韓流ドラマの視聴会でも始まりそうだ。
「おかーさーん。ちょーだーい」
「っ!! 早紀! そんなの、ダメよ! ダメダメ!」
この女は、あれを独り占めしようとしている。普通見られたら仕方無しに上げるものではないのか。家政婦ではないのだぞ、私は。
「ケチんぼ! 印税あげない!」
「え!? それはいや!」
「じゃぁちょーだーい」
「……自分で切りなさい」
「やったっ」
小さくスキップをしてスイカを切りに台所に入る。
「おば様。あれは僕ののはずなんだけどなー」
包丁を握り締め一刀を入れたところだった。明らかに聞き覚えのある高い声が聞こえる。
「いや、あれはリスの声か……」
なーんだ。気にすることなかったか。
「おいこら! 早紀! 心の声なのかわざとなのか知らんけどリスじゃない!!」
と私の背中をトントンと叩いてくるあたり、可愛い。