4ー3
窓を閉めようと手に力を入れた。しかし、昨日の彼女の言葉がそれを拒んだ。
「締めないの?」
まるで私の気持ちを感じ取る様に憂いた顔をする。そんな顔されたら、聞き辛いじゃないか。
「……なんか言わなきゃいけないこと、あったんじゃない?」
「んー……。なにかあったかなぁ」
窓際に座って頭を掻いた。いつもそうだ。困ると無意味に話しを長引かせる。
「そうだ。知子が小説を楽しみにしてるよ」
知子が……ね。
「今から出来を見に行くの。表紙とか見にね」
「だから、今日はそんなにオシャレしてるんだね」
「寝癖たってましたよええ……」
「綺麗だよ」
一瞬何を言っているのかわからなかった。わかった瞬間に熱くなる思いはため息と一緒に捨てる。まったく、この人は……。
「はいはい。もう行くから」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
霧ガラスの窓をゆっくり締める。
その瞬間に私はその場に座り込む。やり場の無い感情にもう押し潰されている。
声を上げて泣けたら、どんだけ救われたか……。
大切なものは、失ってから気付く。
偉人は天才だ。まさにそう。
今から自分の大切なものを海に投げ捨てる。ぬいぐるみ、ペン、パソコン、洋服……。その内捨てたものを欲しがる様になる。そしていつの間にか自分を海底に捨て、見なくなった空を羨ましく思うだけしか出来なくなる。
まさにそう。きっと今は、彼女を羨ましく思っている、それだけなのだ。