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「あー、……スッキリした」
そこには香川くんが痛そうに右手を振っていた。
「伸びたな。びっくりだ」
飯田先輩が味気なく言う。
「取っ組み合いにでもなる覚悟で出てきたんすけどね」
森谷くんは地面に倒れていた。確かに意識はないようで起き上がって来ない。
ふぅ。体から力が抜けるような音がした。その刹那、地面に座っていた。どうやら勢いで膝を擦ったらしく痛い。沸き上がる感情が止めどなく溢れる。これが、恐怖から解放された人の感情か。
「全く。無茶するからだよ」
頭を撫でられる。視線を上げると紳助の優しい顔があった。
「大丈夫か? なにもされてないか?」
私は紳助に抱きつく。
「こわがっだぁ! こわがっだよぉぅ」
この温もりが懐かしい。昔毎日の様にあった温もり。そう、昔からある温もり。これを求めて小説を書いてきた。その実感を筆に載せて。
いつからだろう。いつから忘れてたんだろう。