3ー43
至って静かな空間。日の当たらないこの場所は誰からも見られない場所でもあった。そう、あの不良グループが挙ってたむろする場所である。
体育館裏。雑草と木だけが生い茂る。来ること自体が最早悪いことをしようとする現れだろう。話しを始める前に1度身構える。
「それで、話しって?」
「いや、つい昨日、別れ話を切り出されちゃってさ」
そうなのか。私は嬉しくなると同時に不安が脳裏を過る。
「それでなんだけど、理由聞いたらさ、早紀ちゃんの名前が出てきたからさ」
にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「今回は、オレの愛が通じなかったんだなって思ったからさ。きっぱり別れたよ」
こんなに簡単に別れてくれるなんて思ってなかった。あんな執拗に見せびらかしていたのに。
「でさ、早紀ちゃん。ヒミツのことなんだけどさ……」
「ヒミツ?」
刹那壁際に追い込まれる。そして私の頭の直ぐ横を手が通る。
「えっ、ちょっ」
「黙っててあげるからさ、オレの女になれよ」
油断していた訳ではない。大胆にも力業で拘束された。身の危険を感じ息を大きく吸う。
「あ、大声とかやめてね。傷つけたくないからさ」
悪魔でも憑いた様な顔。
「ダメとは言わせないよ。だって、早紀ちゃんの1番知られたくないことをね」
「ダメ、それは……」
「じゃぁ付き合ってよ」
「それは……」
「へー、いいんだー……。菊川瑞希さんの正体は……!」
「やめて!!」
更に彼の顔は恐ろしく笑う。
「顔上げてよ。可愛い顔が見えないじゃんか」
額を強く押され壁に打ち付けられる。
「まぁ嫌だって言っても、今日からオレの女だ。逆らわせないよ」
何もできない自分が惨めだ。始めからこのつもりだったなんてわかりきってたのに。
森谷の顔が近づいてくる。私の唇を狙っているのがすぐにわかった。顔を外らそうにもあまりの力強さに動かせない。
息がかかった。覚悟を決めたのはその時だ。瞼を強く閉じ、なるべくなにも感じないように暗示する。数秒だ。我慢は。それで私のヒミツが守られるのならば。絵理ちゃんが助かるなら。
こんなにも願わない愛が今私に降りかかる。その直前だった。
「あれ? 何してるのかな? 森谷くん」
それは私のよく知っている声だった。