3ー39
早速配り始める。3人で分割して宿題の束を持つ。
「なにこれ、名指しなの」
ともちゃんの一言に宿題の表紙に目を落とす。
「うわ、本当だ」
「相変わらずキモイことするな」
教卓に置いてある名簿を見ながら、いや顔と名前と場所くらい覚えてはいるが念のため確認しながら宿題を置いていく。休み時間のためクラスの半分くらいは今いない。なのでより面倒なのだ。
私は楽な方で居る人がほとんどだ。ともちゃんは逆のようだが。
ん? 最後のひとつ、絵理ちゃんのだ。幸か不幸か今彼女はひとりだった。私は重たい足で彼女に寄った。
「えーりちゃん。はい、これ宿題」
過剰な反応を見せる。それもそうだ。昨日の今日なのだから。
「あ、ありがとう」
「最近どう? 上手くいってる?」
内心ドキドキだ。聞いてはいけないことを聞いているのだから。案の定回答は遅かった。
「もちろんだよ」
そっか。信じられはしない。あんなのを見たあとなのだから。
「ねぇ、DV、受けてない?」
まさに死神を見るような顔で私を見る。急に恐怖にかられる。
「そ、そんなこと……」
「見ちゃったんだ。昨日。屋上前でさ」
「い、ちが、ちが……」
発作のように違うと繰り返す。
「正直に言って。殴られてるのか、いないのか」
「だから、ちがう、私が、悪いの」
「質問に答えて。殴られてるのか、いないのか」
肩を掴み1度揺する。発作が治まったのか沈黙を口にした。
「殴られたことがあるのね」
誰にもわからないように頷く。その答えに苦虫をかみつぶすような気持ちにならざるを得なかった。後悔だ。後悔しかなかった。
「わかった。そんなの愛でもなんでもないよ」
「でも、私が……」
「悪くない。悪いのは殴る奴だよ」
光のなかった瞳に段々と輝きが出てきた。それがこぼれ落ちるまで涙だとは気がつかなかった。
心に仕舞っていた闇を取り出せたのだろうか。そんな感覚に私は感じた。
「私が言うのもなんだけど、別れなよ。それが一番だと思う」
涙を隠すように頭を垂れさせる。
「でも、出来ない……」
「なんで?」
「あれー? なんで泣いてるのかな?」
タイミングが最悪だ。狙っているかのように来る。