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売れっ子の恋愛小説作家、菊川瑞希。淡く儚いストーリーを軸に展開していく高校生の恋愛を得意としていて、新作の販売となると超有名作家と同様に開店前の書店に人が並ぶ。
それを景気がいいと取るか、夢を見すぎていると取るかは人それぞれで私は後者の人間だ。ヤンキー漫画が流行ってヤンキーが増えても、犯罪漫画が流行って犯罪が増えても、しがない恋愛小説で日本の少子化が抑えられるかと言ったら無理に違いない。
そう考えながら昼食を食べていた。たこさんウインナーを頭からひとくちで食べ、ご飯を口に運ぶ。
「ねぇ! ちょっと、聞いてるの!?」
咀嚼を止める。あぁ、そう言えば目の前に友だちがいる。ともちゃん。秋川知子。黒髪ロングの毛先までしっかりとトリートメントされているサラサラの髪。ぱっつんに揃えられた前髪に整えられている眉毛。そしてぱっちりおめめに長いまつげ。羨ましいくらいに綺麗な顔立ち。少し残念なのは胸があまりないことだろうか。
今日発売された菊川瑞希新作の『秋雨』に出てくる主人公にともちゃんは瓜二つだ。