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よくある怪談

よくある怪談

作者: とおエイ
掲載日:2026/04/24

 午前二時十二分。

 ナイトマネージャーの私が受話器を取ると、切迫した声が響いた。


「今すぐ来てくれ」


 三一二号室の宿泊客だった。


「どうされましたか」


「部屋の中を、何かが歩いている」


 三一二号室は一名利用。同行者はいない。


 私は姿勢を正した。


「侵入者ですか」


「違う」


「現在、危険はありますか」


 短い沈黙のあと、震えた声が返る。


「……わからない。壊れている。中が見えている。ずっと同じ場所を回っている」


 パニック気味の受話器の向こうで、何かを引きずりながら歩く音がした。


 ガシャン……ジャラ……ガシャン……


「すぐ伺います」


 深夜の館内は静まり返っていた。

 誘導灯の淡い光だけが、長い廊下を照らしている。


 三一二号室の前に立つと、私はインターホンを押した。


「フロントです」


 扉が開く。


 客は甲高い声で、部屋の奥を指さした。


「あそこだ」


 照明の落ちた室内。

 窓から差し込む淡い光の中を、『それ』は歩いていた。


 崩れた肩。裂けた首元。乱れた外装。


 ガシャン……ジャラ……ガシャン……


 私の頭に、前勤務地でマネージャーから聞いた古い言葉が浮かぶ。


 ――落ち武者の地縛霊


 古い鎧。

 ザンバラ髪。

 特徴は一致する。


 あり得ない。

 なのに、それ以外の呼び名が見つからなかった。


 その瞬間、『それ』が止まった。


 ぎこり、とこちらへ向く。


 顔の部分はぽっかりと暗い空洞が口を開けていた。


 そして、何事もなかったかのようにその場で消えた。


 私は室内設備の状態を確認した。

 侵入者の痕跡はない。

 機器にも異常はない。

 原因はわからなかった。


「……別のお部屋をご用意します」


 客は視線を外さぬまま言った。


「原因は」


「わかりません」


 客は不満そうに黙り込んだ。


 新しいルームキーを発行するため、私は予約情報を開いた。


 氏名表記は地球言語で発音不能な記号列。

 出身地――アルファ・ケンタウリ星系第5惑星


「どうかしたのか?」


 客が不審そうに尋ねる。


「……いえ」


 指先でカードキーを書き換え、客へ返却する。


「ご迷惑をおかけいたしました。

 今日の宿泊費はいただきません。

 ごゆっくりお過ごしください」


 不満げだった客の触手が一気に引いた。


「地球圏の接客水準は高いと聞いていたが、

 ロボットまでサービスができるとはな。

 ありがたく受けさせてもらうよ」


 一気に機嫌が良くなった客を新しい部屋へ案内し、私はフロントへ戻った。


 充電ポッドに接続しながら、今日の報告内容を整理する。


 窓の外には、青い地球。

 ここは月面都市。


 ホテルは新築。

 客はアルファ・ケンタウリ星系からの来訪者。



 落ち武者の地縛霊は、報告成立条件を満たさない。


 私はそのままフリーズし、翌日、同僚に再起動された。


 報告書には、

 『クレームに対応した』

 とだけ記録した。

 

 ついでに、今後私がナイトマネージャーを担当する日は、

 三一二号室を予約済みにしておく。

 そうメモリに記録した。

星新一神あたりとネタかぶりしてるかなと検索はしてみましたが見つからなかったので投稿いたします。

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