――風、凍えるサンタアナ。
歪んだ世界では、寒気が熱を帯びる。
さしておかしい事ではない。
――第4章「歪み」 - 破
「……あつい」
ベッドの上で目を覚ます。やけに体が熱い。体に服が纏わりつく不快な感覚。驚くほどの量の汗をかいている。悪い夢でも見たのかもしれない。幸か不幸か、夢の内容は全く覚えていないが。
頭がぼぅっとしている。ええと、俺は、起きたらまず何をするんだ?
普段は、顔を洗い、服を着替え、朝食を摂り、――――学校へ行く。
そうだ、学校。今何時だろう? 起きたとき、目覚まし時計の音がしなかった。だとしたら、もしかして遅刻なんじゃないか。時計、時計は、どこだ?
がむしゃらに動かした右腕が、ようやく目覚まし時計を捕まえる。よし、よくやった。それで、ええと……?
しばらくして、顔の前に構えた目覚まし時計をじっと眺め続けている自分がいることに気がついた。いかんいかん。なにやってんだ、俺。それで、時間は――――――八時、くらい?
「八時くらい」がちょうどいい時間なのか、はたまたもはや遅刻を免れない時間なのかどうかを判断するのに、数分かかった。
――ああ、遅刻じゃないか。マズい。早く、起きないと……。
起こそうとした体が、再びベッドへ倒れこんだ。
「あ……れ…………?」
おかしい。体が思うように動かない。重い頭が、徐々にズキズキと痛み始める。
乾いた喉が熱を持ち始める。肺が腐った空気を勢い良く排出する。そして何より、体が熱くてたまらない。
……風邪だ。
久しぶりすぎて、風邪をひいたという感覚がわからなかった。
こんなに苦しいものだったっけ。うーん、これじゃ学校へ行くどころか、立ち上がることさえままならなそうだ。
欠席するしかない。ええと、欠席するときは連絡を入れるんだっけ? ……いらないかな。
ああ、だけど、イズミには連絡しておかないと。何故か――そうしなければいけない気がする。
「『ごめん休む』――と」
ポケットに入りっぱなしだった携帯を取り出し、働きの鈍い頭と予測変換をフル活用してイズミにダイイングメッセージを送信する。
「これでよし。……水、飲みたいなあ……」
そんなちっぽけな願いさえ叶えることができないまま、俺は再び眠りに就くしかなかった。