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ライアー・ファイアー・ドライヤー  作者: 安里真裕
第4章「歪み」 - 序
24/74

――係、コンクリに立つ君と泥濘に立つ俺。

形のあるものは例外無く歪んでいく。

何故それが理解できない?


――第4章「歪み」 - 序

挿絵(By みてみん)


「……やっと来た」


 学校の敷地の一番片隅にある、ボロボロの二十五メートルプール。今がオフシーズンということもあり、授業ではもちろん水泳部にも使われていない、枯れた水槽。

 メールに書いてあった通り、その陰で彼女――立松 イズミは俺を待っていた。


「仕方ないだろ。授業はとっくに始まってるんだし、見つからないように来なきゃならなかったんだから」


「……そっか」


 そんな俺の弁解を聞き、どうやら納得してくれた様子。が、依然壁に寄りかかったまま、紙パックのいちご牛乳をストローでちゅーちゅーと飲んでいるので、どうしたものかと思う。


「――で。どうしたんだよ、急にサボろうだなんて」


 俺は今年に入ってから授業にほとんど参加していないのに加え、先週まではクラスメイトなどにはまったく興味がなかったので、イズミの普段の様子については何も知らない。

 だけど、やっぱり違和感を覚える。イズミと関わりを持ったこの数日間で感じた彼女の印象と、授業をサボるなんて行為はまったく結びつかないからだ。これが角さんだったり、はたまたケロちゃんだったとしても、現状ほどの意外性は感じられないだろう。


「ね、由利也クン」


 未だに、あらたまって名前で呼ばれると、ドキッとする。今までの人生で俺を「由利也」と呼んだのは、イズミの他には姉しかいない。母さんは何故か俺を「(ゆう)くん」と呼んだし、家族同然の三佳さんからは代名詞でしか呼ばれた覚えがない。


「さっきは、楽しかった?」


 “さっき”。当然、賑やかだった今日のあの昼休みを指している。


「純粋に楽しかったよ。あれだけ充実した昼休みは、ひょっとしたら初めてかもしれない」


「あはは、それは言い過ぎじゃない?」


 どうだろうな。小、中学生時代に昼食が楽しかったという記憶は無いし。もしかしたら高校に入って最初の一年には同じくらい楽しんだ昼休みがあったかもしれない。その日々は遠すぎて、ぼんやりとしか思い出せないのだけれど。


「でも、よかった。由利也クンが楽しかったって言ってくれて」


「ん、どういう意味だ?」


 いちご牛乳を少しだけ飲んだ後、再び話し始める。


「わざわざ香早生(かわせ)ちゃんや寧子(やすこ)に来てもらったわけだしね」


「ケロちゃんは、やっぱりイズミが無理やり引っ張ってきたんだな」


 無理やり、というところが引っかかったようで、口を尖らせて反論してくる。


「む。あの子、私が教室に出向いて誘った時にはノリノリだったのよ。だけど、いざとなった時に尻込みし出して……」


「……あんなことをやらせたわけか」


「兄持ちだし、もっと軽いノリでやってくれると思ったのよ」


 偏見だなぁ……。例えば俺は姉持ちだが、知り合いの年上女性を軽いノリで「お姉ちゃん」と呼ぶ自信はない。


「で、寧子の方は……」


「朝、顔を合わせた時に約束してたんだろ?」


 正解のようで、一瞬だけ、ちょっと意外といった顔をされた。


「そそ。普段は比較的私が寧子のクラスに行って食べることが多いんだけど、今日は、って」


 先週の金曜日――俺がイズミと教室の入り口で鉢合わせになったあの日も、おそらくはそうしていたのだろう。だけど、テニス部の三人とそれなりに面識があったところを見ると、角さんもいくらか頻繁にうちの教室に出入りしているらしい。



「――って、そうじゃない」


「ぇ?」


 どうしてこう、俺は話を逸らしてしまいがち、加えて逸らされてしまいがちなんだ。


「俺が楽しんでくれてよかった、ってどういうことだよ? そのためにわざわざ二人を呼んでくれたっていうふうに聞こえるんだけど」


 すると、少しだけ顔を赤くして視線を逸らされる。えっと……?


「べ、別に他意は無いのよ? 恩を着せたいとか、そういうのも含めて」


「ああ、それは、うん」


 なんかこう……やりづらいなぁ。


「――私も、楽しかったよ」


「え?」


「だから、今日の昼休み。由利也クンが楽しそうにしてると、なんだか私も嬉しくて」


 心臓が破裂しまいそうなほど大きく脈を打った。再び目を合わせてきたイズミの、ほんのり赤く染まった淀みないその笑顔に。


「でも忘れないで」


 イズミの声色が、急激に熱を失う。


「私と貴方の本来の関係」


 ……ああ、忘れていないよ。……忘れたかったけどさ。


「これを見て」


 スカートのポケットから取り出された物。それは、ジップロック式の小さなビニール袋。


(から)……じゃないよな」


 一見、その袋の中には何も入っていないように見える。


「ええ。よく見て」


 イズミが、袋を乗せた手を俺の顔に近づける。やっぱり何も……。

 いや、何かがある。袋の隅。一欠片だけ、何かが。


「これって……」


 見えずとも、そこに何が入っているのかは薄々感づいていたが……ビニールに包まれたこの緑色の何か。これはおそらく、前に一度イズミに写真で見せてもらった――、


「そう。EPDよ」


 EPD。人間を“溺者(ドランカー)”、そして人を超えたヒト――“覚醒者(スレイヤー)”へと変貌させる、謎のドラッグ。

 状況が把握できてしまう。まるで警察が使うような小さくも現状なビニール袋に入れられ、さながら何かの証拠品のように扱われているEPD。つまりは、そういうことなんだろう。


「正しくはEPDの欠片ね。(しつ)の悪いものだったから、体に打ち込む際に欠けたみたい」


「質が悪い?」


 俺の記憶違いでなければ、初出の情報のはずだ。


「そっか、まだ話してなかったわね。製造がずさんだったのか、あるいは保存の仕方が悪かったのか、状態の劣化したEPDが存在するの。特徴は結晶がやや黒ずんでいて脆いこと。体内に入った後の挙動については、状態の良いものとの違いは確認されていないわ」


 どうやら大した情報ではなさそうだ。……今のところは。


「で、それはどこで、いつ?」


 焦りから、ほんの少しだけ問い詰めるような口調になってしまった。


「私に手渡されたのは、ついさっきよ。……もっとも、情報は朝には入っていたんだけどね」


「手渡された、か」


 まずはそこだ。まさか、イズミが前に話していた警察まがいの誰だかがわざわざ学校を訪れて……なんてことはないだろう。


「ごめん、それもまだだったわね。前に『対策チーム』のことは話したでしょう?」


「ああ」


 どうにも胡散臭い印象しか受けなかった、得体の知れない連中。


「私と“彼ら”の接点は二つ。まず、代表の植草という男との連絡」


「それは前にも聞いたな」


「ええ。私は彼と直接顔を合わせたことがあるわ。そして、電話番号を一つだけ知らされている」


「ああ、それは大体思っていた通りだ。それで、もう一つは?」


 俺自身から焦りが静かに(にじ)みでているのを感じる。(わず)かだけど、確実に。


「この学校の用務員の一人が、関係者なのよ。ごめんなさい、それが誰かは教えることはできないの」


 なるほど。だとすると、朝に植草という男から電話で連絡が入り、昼にその用務員から“現物”を渡された……という流れだろうか。

 ――そして、連絡を受けたイズミは早急に「昼休み」を計画。加えてなるべく教室を出ないようにして“現物”が自分の元に届くのを遅らせた? ……いかん、下衆な勘ぐりはやめよう。


「その人は『チーム』の人間なのか? それともただの協力者なのか?」


「ごめんなさい、それは私にも知らされてないの。前にも話した通り、私が知らされているのは最低限の情報だけ」


 ふむ。俺だったら到底そいつらを信用することなんてできない。「事」を行う側の人間が、どうして軽視されなければならないのか。これじゃ対等ですらないじゃないか。

 イズミが何故そんな得体の知れない連中を信頼しているのか、なんてことは、本人に問うまでもない。彼女の言っていた「けじめ」。イズミが“人外”と戦っているのには理由がある。それと天秤にかければ、協力者が多少胡散臭いなどということになど構っている場合ではないのだろう。そう、協力者が信用ならない連中であることは、イズミ自身もわかっている。


 ――だから彼女は、信頼できる協力者を求めた。


「……自惚(うぬぼ)れかな」


「ぇ?」


 っと、また悪い癖が出てしまった。


「ごめん、こっちの話」


「もう。真面目な話なんだから、貴方も真剣に聞いてくれないと困るのよ」


 その通り、真剣な話をしているだけあって、イズミはその緊張感を解きはしなかった。


「ああ、悪かった。で、どこまで話してくれたんだっけ? 校内でEPDが見つかったって話は聞いた」


「……言ってないわよ、校内で見つかったって。まあ、その通りなんだけど」


 ありゃ、確かに言われていなかったかもしれない。だけどまあ、情報を貰ったからにはこっちで推測もするさ。


「その用務員が発見したんだろ? それ」


 言って、既にイズミのポケットに仕舞われたEPDの欠片を指す。


「正解。……どうしてわかったの?」


 どうして、か。もちろん「なんとなく」っていうのが一番デカいんだけど。


「もっと大量に見つかったとかならまだしも、そんな僅かな量だけなんて、なかなか発見できないだろうと思ってさ。用務員なら、生徒がいないうちに校舎内を隈なく捜索できるだろ?」


 俺を見るイズミからは、先ほどよりいくらか緊張感が抜けている。


「……95点の回答だわ。ごめんね、話下手で。……はぁ。私が由利也クンの質問にだけ応えていった方が、よっぽど話がスムーズに進む気がしてきた」


「いや、多分聞き手(おれ)が悪いだけだから、そんなにへこまないでくれ……」


「……うん」


 話下手、か。もしかして気にしてるのかな。全然そうは思わないし、俺は好きだけどな、イズミの話し方。



「――とにかく」


 改めるイズミ。場に再び緊張が宿る。


「状況はわかったでしょう?」


 校内でEPDが発見された。それが示していることは、1つしか見つからない。


「この数日間で誰かが“溺者”と化した可能性がある」


「そう。ほぼ確実と見ていいわね。“大人(ライヤー)”は不用意にEPDを持ち歩いたりしない。それが発見されたということは、そこで“やり取り”があったはずよ」


 と、イズミが何やら憂鬱そうな顔をしている。


「少し前まで――高峰さんが“大人”になったと思しき頃までかな。その辺りまでは、EPDの“やり取り”は今より全然無用心に行われてたのよ」


 無用心?


「と、いうと?」


「放課後の教室で、部活動に参加していない生徒の間で盛んに“やり取り”が行われていたの。やりたい放題、無法地帯だったわ」


 だからこそ昨年度あれだけ大量の生徒の転出があったわけか。例の、うちのクラスの生徒が1年でほとんど入れ替わった(あくまで俺が持った印象だが……)という年だ。EPD絡みの転校――直接関わった者、そして“噂”を耳にした者、それらの転校と通常の転校が相乗した結果、ああいった事態に陥ったのだろう。


「だけど……今は違う。EPDの“やり取り”は、完全に“大人”によって制御されているわ」


 つまり、逆にそれまでEPDは一般人同士の間でタバコやシンナー程度の扱いを受けていた?


「私にはそれが、“大本”が動き出したってことに思えてならないの」


「“大本”……」


「そう。この古宮高校にEPDをもたらした“大本”」


「……ふむ。俺には単に乱れた秩序を正そうとしているように思えるんだけど……」


 イズミがその細い指を眉間に当て、少し呼吸を置いて話し始める。


「確かに私も最初はそう思ったわ。だけど……なんだろう。何か悪い予感がするの。言ってしまえば、根拠は無いわ。なのに、それを拭い去れなくて……」


 イズミは部活動に参加している生徒を中心として、数多くの古宮高校(ふるみや)の生徒と会話を交わしている。だからこそ、この学校を取り巻く“空気”のようなものが、漠然と感じられるのだろう。きっと、その「予感」も見当違いではないはずだ。


「つまり……“大本”が“大人”や末端の“溺者”を利用して何か行動を起こそうとしていると?」


「うん……。ここ一月くらい、“大人”が驚くほど神経質になっているのよ。……1名を除いて」


 多分、派手に行動を起こしてくれた高峰を指している。


「神経質って?」


「行動を起こさないようにしているのか、はたまた完全に証拠を隠滅しているのか。どちらかはわからないけれど、私たちの側で“溺者”の発生が確認できていないの」


 それってつまり……、


「ひょっとすると、気付かないうちに“溺者”が大量に生み出されているかもしれない?」


「うん……。ごめんなさい、私が不甲斐ないばっかりに」


 うーん、どうしてこの子はこんなにも弱気になるんだろう? もっと胸を張っていてくれないと、困る。


「今回発見されたEPDの欠片が、たまたま行われた“やり取り”の証拠なのか、もしくはたまたま隠滅に失敗しただけの末端の証拠なのか、ってことだな」


 こくん、とイズミが頷く。


「俺は――この一ヶ月“やり取り”が行われていなかったんだと思うよ」


「ぇ? ど、どうして?」


 弱気に満たされたイズミは、まるで小動物のようだ。具体的に言えば森に棲む齧歯類(げっしるい)……。


「なんとなく。予感、ともいうかな。俺ですら、昨年度のうちの異様な雰囲気は感じてた。だけど、この一ヶ月は、うーん……どこか平穏な感じがしてた。俺はそれを退屈と履き違えていたようだけど」


 止めどなく口から流れ出る出任せに、今は頼る。それは情けないほどに根拠が無くて、あまりにも無益。


「そっか。……ありがと」


「……あー、いや、うん」


 ……はは、やっぱり露骨に励まそうとしすぎたかな。かえって迷惑だったかもしれない。


「あ、今年度に入ってからのうちのクラスからの転出は全員EPD絡みじゃないから安心して。もっとも、もしかしたら裏でその関連の脅迫か何かがあった可能性は否めないけどね」


「――そっか」


 顔も名前も覚えていない三人だけど、純粋に「良かった」って思う。



「それで、ね」


 再び話を始めるイズミの顔には、先ほどと似た不安の感情が見られる。


「もし“大本”が何かを企んで動き出したとしたら、どうしてだろうって考えたの」


「ふむ」


 それは至極真っ当、自然な流れだ。


「由利也クン。『この時期』、と言ったら何を連想する?」


「『この時期』?」


 この時期、つまり今の時期。四月を過ぎた五月の初旬。桜が散って春が終わり、徐々に夏へ向かっていく時期。

 その時期の古宮高(ふるみや)といえば、あれが控えているじゃないか。今年度最初の定期テスト、それから――、


「――体育祭か!」


「そう。やっぱり何の根拠も無いのだけど、もし本当に体育祭で何かが起こってしまえば一大事だわ」


 体育祭には、全校生徒とは言いがたいものの、多くの生徒が参加する。そもそも人を“覚醒者”に変容させようとしている“大人”の意図がわからないままだが、多くの生徒が一斉に“溺者”、そして“覚醒者”と化してしまったら、考えるまでもなくそれは大惨事だ。


「だから、実行委員に立候補したわけか」


 不可解だったイズミの行動にようやく納得がいった。


「そ。バスケ部の監視も、ようやく一段落したしね」


「布施の件か。――あ、そうそう。『部活やってる生徒は転校しない』って、本当なのか?」


 今日のいつだったか、誰だったかが、そんなことを言っていた気がする。


「今まではね。部活動を通してクスリの連鎖が起きちゃうと厄介だから、なんとか私が食い止めてるの。あれはOB/OG含め既に組織として出来上がったコミュニティーだから、根付いたらもうアウトね」


「大学生がサークル全体で大麻やってたりする、アレか」


「そ。高峰さんと布施くんの件は……わかっていたけど迂闊に動けなかったっていうのが大きかったわ。二人とも別々の部で活動をしているっていうことで、こっちもマークが大変だったの。何せ、私は存在を知られた時点で『詰み』だから」


 学校の中に“大人”がどこに、どれだけの数存在しているかもわからない状況で自分が「それと敵対する者」だと知られてしまえば、確かに未来は無い。


「ま、“掃除人(リムーバー)”とかなんとか言って、その存在自体は知られてるようだけどね」


「あ、それ“向こう側”の用語なのか」


「あはは、わざわざ格好つけてそんな自称なんてしないわよ。第一、いつ誰に名乗るの?」


 ……高峰に向かって格好つけて名乗ってた気がしたが。あれは格好良かった、うん。


「ちなみに、“大人”も彼らが創った言葉よ。……センスがいまいちよくわからないわよね」


 よかった、イズミも俺と同じ感想を抱いてくれていたようで。



 キーン、コーン、カーン、コーン。思わず耳を疑う。ポケットから携帯を取り出し時計を確認すると、デジタル表示が確かに五時間目の終了時刻を示していた。


「ほんと、一時間って短いわね」


「まったくだ。で、どうする?」


 ぽかんとした表情をされる。っと、さすがに急すぎた。


「サボりの口実。『二人でサボりました』じゃ、さすがにまずいぞ。その……男女だし」


「あー……。そうね、全く考えてなかったわ」


 ……「全く考えてなかった」か。いいのか、それで。


「じゃあ、まあ、オーソドックスに『保健室行ってました』でいいか。二人とも」


「そうね。朝の件からして、言い訳なんて誰も聞かないわよね」


「……そういう自暴自棄な考えは良くない」


 この子は誤解されたいのかされたくないのか、いまいちよくわからん。


「それじゃ私は今から教室に戻ってHR(ホームルーム)に出てくるから。尋ねられたら由利也クンも保健室に居たって言っとくね」


「おー、頼む。……で、俺はどうしようか。カバンを置き去りにして帰るか?」


 幸い、携帯電話、財布、自転車と自宅の鍵はポケットに入れてあるので、特に問題なくこのまま帰宅できる。教室に置いてあるカバンは、実は空っぽだったりする。


「何言ってるの? 今日は体育祭実行委員の集まりがあるでしょ?」


「……あ」


 すっかり忘れていた。


「出るのか?」


「当たり前じゃない」


 五限をサボった後に、二人してのうのうと実行委員会に参加するのか。……嫌だなぁ、それ。


「じゃ、くれぐれもサボらないようにね」


 そう言って、イズミは軽快な足取りで走り去っていった。それを見ながら俺は、


「二人とも保健室で寝てた、か。……信じさせる気が全く感じられないな」


 自分が軽い気持ちで提案した口実が、どうしようもなく脆いものであることを再確認した。


 乱雑なコンクリートと湿った土とが入り交じった地面の上、(ほの)かに香る遠い塩素の匂いを感じながら、俺は再び憂鬱に浸り始めた。

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