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――桜、月、そして銃の少女。
名執 由利也は出会う。
花に。
少女に。
歪な存在に。
そのどれもが、偽りの平穏を掻き乱す。
――第1章「出会い」
半分だけ開かれた窓から、微かに風が入り込む。
見慣れた教室。見慣れぬ情景。
それは、単に今が夜だからではない。
「――――名執、由利也クン」
円く満ちた月が、朧げに世界を照らす。舞い散る季節外れの花。俺の名を呼ぶ少女。
「お前は、一体何者なんだ……?」
月明かりが映し出す。
少女の、雅めいた美しい貌。風に靡く柔らかな焦茶色の髪。
制服に身を包んだ小柄で靭やかな体躯。そこから伸びる、皓く細い腕。細い指。
握られている、黎い銃身。
「私はイズミ。この学校で、御覧の通りの仕事をしているの」
少女の足元にはもう一人、少女が横たわっている。
彼女はつい先程イズミによって――――
「この学校には“大人”が居るわ。それを排除するのが、私たちの役目」
五月。皓月に照らされた昏い夜。
花の香い。髪の匂い。硝煙の臭いの漂う中、
そうして――――――俺たちは出逢った。