「婚約は破棄するが、許しを請えば今までどおり事務作業だけはやらせてやろう」と言われましたが、元々婚約解消の予定ですよ?元婚約者様
「婚約を解消…いや、破棄にしたほうがいいだろうか?」
唐突に、私の婚約者が書類から顔を上げて言い出しました
ここは生徒会室、時間は放課後。そろそろクラブもしまいにはいる時間ですが、期限の近い申請書が山積み
この状況で何をと思いましたが、話すまで手も進みそうになく
私も顔を上げ、目を向けあい続きを促すように待った
「破棄の方が傲慢さを際立たせるし、余計な邪魔も入らないと思うんだ」
生徒会長である婚約者は、美しい見目であり、カリスマ性も高くとても人気だ
婚約解消したとあればこの書類の束程度ではないほどの釣書が来ることは予想に難くないだろう
婚約破棄という劇薬を目眩ましに横槍を排除するというのは考察の価値は無くはないだろう
された側の傷を考慮に入れなければ
考察を終え、伏せていた眼を再び婚約者に戻す
「君はあまり傲慢さを知覚していないようだけどね…
正直、私はもう疲れてしまっていた。そこに、彼女が来たんだ」
彼女とは、最近生徒会に入った新入生の事だ
自己紹介の時、ピンクブロンドのふわふわとした髪を「湿気が強いと爆発するんです」と恥ずかしそうに両手で押さえる姿に婚約者と私は可愛らしいと、微笑みあった
あれから彼女は婚約者の補佐として学園で同じ時を過ごしている
最近ではプライベートでも、お茶会を三人ですることもある
「そんな彼女に、あなたは裏庭で何をした?
彼女は泣いて私の所に来たんだ」
婚約者の目がきつく絞られる
正義感というより、大切な者を傷つけられた怒りによるものだと知っている
かつてその瞳に守られていた私が、その瞳を向けられるとは
少しばかり悲しさが胸で凪ぐ。けれど
言わなければいけないことは、今漸く形になった
「だけれど、私とて婚約者の情がある
彼女に謝罪して許しを得たなら、今後も傍らに置いてあげよう
勿論、今までのように仕事をしてもらう為に、ね」
婚約者の目が薄く濁っている。口も醜く歪んでいる
このままではいけない、と
私は口を開いた
そして、私達の婚約は…終わった
◇◇◇◇◇
その後、二組の婚約が発表される
一組は、侯爵の次男と公爵の一人娘
もう一組は公爵家に仕える子爵家令息と優秀な男爵令嬢
生徒会長をしていた優秀な公爵家の跡取り娘は、元々家に家令として仕える子爵の息子と同い年であるため婚約していた
しかし学園に入り、彼女は代え難いパートナーを知ってしまった
副会長として敏腕を振るう侯爵令息の力強さ。己を支え、引っ張ってくれる心強さ。その頼もしさに一年も経たず心を染め上げてしまった
だが、彼女には幼馴染の婚約者がいる
同じ生徒会で会計をする彼にはもうバレバレではあるだろうが、それでも恋心に蓋をして結婚する事に戸惑わないくらいには情があった
しかし、その彼もまた恋を知ってしまう
2年になり、新しく書記として入ってきた首席の男爵令嬢
私のストレートの髪を見ての行動だろうか、顔を赤くして髪を押さえる小動物的な可愛さに目を奪われる彼の顔は、私の知らない、よく知った感情の乗った顔だった
ならば、と。私は行動を起こした
私は彼を手放せない
だけれど、婚約者でなくても、配偶者でなくても、良い
私の側で、父と家令の距離で、良い
何とも傲慢な考えであろうかと、自笑してしまう
その傲慢な考えで、彼女を側に置いた
この二人が結ばれるように
結ばれても、私から離れられないように
だから、あの時。あの生徒会室で。あんな言葉を聞くとは思わなかった
「貴女が傲慢など、私は思っておりません
実は我々の婚約は、卒業後に解消される予定なのです
私は、次期公爵の家令としても教育されて居まして
このままであれば、私はメイドの誰かと結婚をし、元婚約者という引け目を感じさせない距離で仕えていたでしょう
ですが、貴女は彼女を側におきました
彼女とはよく話をしました。将来、貴女を支える者同士として
彼女と貴女の信頼関係には妬いてしまいますが…
彼女が泣いた日、私はプロポーズをしたのです
婚約の解消後に、結婚して欲しい、と
侍女長の母の下に入っていたので、もう聞いているとばかり思っていまして
ですが、貴女も知らなかったとは思い至りませんでした。申し訳ありません
副会長と仲を深めきれていない辺りから察せなく、不服の致すところです
因みに彼には伝えてあります。婚約が解消される事は
卒業後、目いっぱい甘やかしたいから整えておけと頼まれておりますので心の準備は致しておいたほうが宜しいかと存じます
……私は、貴女、お嬢様、主様の傍らこそが居場所であり、幸せでございます
勿論、彼女には許しを請い、必ず婚姻の許し共々得てきます
婚約は解消されますが、これまで通り事務作業等、お任せくださいませ」
愛はないけどしごできな元婚約者の再捕獲方法
前半は生徒会会計(子爵令息)視点
後半は生徒会長(公爵令嬢)視点




