馬鹿!!!!!!
次の日
「いやぁ…嘘ついてるんじゃないの?」
「はい…?」
カウンセラーの言葉に僕は耳を疑った。
「記憶がないって…だって、この子嘘つきなんでしょう…?」
信じらない言葉が棘となって突き刺さる。
「…そう…かもしれないですけれど…違うんです…」
「どう違うの…?この子が記憶がないって嘘ついているのとは違うの?」
「清水さんは本当に記憶がないんです」
「え、なにそれ?本当?それ、大丈夫なの?」
「いや、大丈夫かわからないから、あなたに聞いているんですよ」
「うーん。本人が記憶がないって嘘ついてるとかなんじゃないかなぁ…」
「そう。今まで嘘ついてたの。ごめんなさい」
と、先ほどまで何も言わなかった清水さんがいきなり口を開いた。
「あ、ほら」
「清水さん!?」
嘘だ。これは嘘だ。僕は知っている。
「清水さんは嘘をつく時、タメ口になるんです!だからこれは嘘です!」
「…そうなの?」
「ううん。記憶があるのは本当だよ。祐希心配しないで」
「そう。じゃあ、もう大丈夫ね」
「〜!?」
声にならない声が出た。
どうすれば、どうしたら信用してもらえるのか。
カウンセラーは座っていたパイプ椅子から立ち上がり荷物をまとめ、背を向けて帰ろうとする。
「いや、だから!あなたしか頼れないんです!!!」
カウンセラーはくるりと、振り返り、
「うーん…お医者様にかかってみては…?私じゃよくわからないし、ほら専門家だから…精神科とか…」
と言った。
この瞬間、僕の怒りは沸点を超えた。
「馬鹿!!!!!!」
僕の剣幕に清水さんがビクッと肩を振るわせた。
初対面の大人に向かってこんな激しい言葉生まれて初めて使った。
でもそれくらい感情が荒ぶって、激昂していた。何よりも悲しかった。信用されないことが。こんなにも悲しい世界に清水さんは生きていたんだ。ずっと。その片鱗に今日触れた。恐ろしいほど残酷だった。
知らなかった。話一つを理解されないだけで、こんなにも苦しかっただなんて。清水さんはこれまで何度繰り返してきたのだろう。
僕は気づいたら、がむしゃらにその場から走り去っていた。
あんな他人任せな言い方しなくていいじゃないか。
この怒りは清水さんのためじゃない。
僕のエゴだ。
本当はちゃんと否定して欲しかったんだ。その可能性を。違うってちゃんと言葉にして。
消さなくてはいけなくなるかもしれないから。
選ばないといけなくなるかもしれないから。
清水さんを殺さないといけなくなるかもしれないから。
僕は自分のためだけにカウンセラーに相談した。
僕は勝手な人間だ。
「ああああああああああああああああ!!!!!」
精神科医に頼れないから、カウンセラーに頼ったんだろうが!馬鹿!馬鹿!!馬鹿野郎!!!
「尾上くん。どうしたんですか。今からカウンセラーの方とお話ししに行くんじゃないんですか…?」
清水さんはカウンセラーと会話したことを記憶していなかった。
僕は気づいたら、校庭に出て蹲っていた。
清水さんが心配そうに僕を覗き込んでいる。
「ごめんなさい…清水さん…ごめんなさい…僕が…僕のせいで…傷つくようなこといっぱい言われてしまって…」
「覚えてないので大丈夫ですよ」
といつものように花が咲くように、宥めるように優しく笑う清水さん。
「尾上くんが最近泣いたのはいつですか?」
「?」
質問の意図がわからない。
「私は四日前に久しぶりに泣きました。尾上くんに泣かされました」
「あれは…びっくりしました…」
「それから毎日、尾上くんに泣かされています」
「ごめんなさい…」
「いえ、私、嬉しかったんです。お友達ができて、本当に嬉しかったんです。尾上くんがお友達になってくれたおかげで悲しみの涙も不安の涙も心配の涙も喜びの涙も流せたんです」
そう言う清水さんの笑顔に浮かぶ不自然なほど真一文字に結ばれた唇がぷるぷると震えている。
「でも今は寂しさの涙です」
その言葉と共に線を描くように涙が一粒、清水さんの目から伝って落ちてきた。
僕はこの瞬間、理解した。
清水さんも自分に何が起こっているのか知っているのだと。
「私、実は泣き虫なんですよ。自分でもそのことを忘れていました。最近泣いていなかったから。でも、尾上くんに出会って、お友達になって、好きになって、思い出した。感謝しているんです。だから、尾上くんも泣いていいんですよ。私の前でなら思い切り」
泣けって言われたって泣けない…といつもの僕なら言うだろう。
でも、この時の僕は違った。僕は子供みたいにみっともなくわんわん泣いた。
ふと清水さんを抱きしめたくなった。
抱きしめないといけないと思った。
だって、清水さんが僕よりも泣いている。
泣き虫同士泣き止むまで僕らは泣いた。
◇
「…僕は清水さんが好きです」
最初に出会った時、僕が清水さんに友達になって欲しいと思ったのは、あの時にはもうすでに清水さんのことが好きだったから。告白されたのが嬉しくて、気になって、友達からでも始めたかったから。
「私も好きですよ。尾上くんのこと」
「…でも…僕は他にもう一人好きな人がいるんです」
「…はい」
「…知っていたんですね…」
「…なんとなくは…脳神経外科では分からないわけです…精神的な問題なんだから」
「…」
「脳神経外科の先生からは精神科の紹介状を書いてもらってはいたんですが、どうしても行けなくって…」
それはきっと清水さんの過去のトラウマのせい。
精神科に通って、いじめられた過去があったから。
「「…」」
お互いしばらく黙った後、清水さんは覚悟を決めたように
「私、消えてもいいですよ」
と言い放った。
「…っていうのも清水さんの嘘だったら、僕は一体何を信じて生きていけばいいんですか」
「そうなんですよ。私、嘘ばっか言うんです。だから、これも嘘かもしれない」
「じゃあ、本当だ」
「本当です。私、嘘ついたことないんですよ。世界一信用できる嘘つきは私ですよ。」
「じゃあ、嘘だ」
「どっちですか」
あはは。と笑った。
夕陽が照らすその横顔がとっても綺麗で。この笑顔は嘘じゃない。そう思えたから、もう大丈夫。僕はもう大丈夫。
「あ、でも、もし、私が消えるとしたら、その時は最後は笑顔で送り出してくださいね。泣いてさよならは嫌ですから」
とおどけたように清水さんは笑う。
「もちろん」
「ありがとうございます」
「清水さん、代われる?」
「…無理そうです。私からはどうにも…私の力最近弱くなってきているみたいで…このままでも多分私、押し負けて消えるんです…」
「じゃあ、次に代わる時は絶対僕がそばにいます。朝一緒に登校する時から下校するまでつきっきりで清水さんのことだけ見ています。だから、清水さんも僕のそばを離れないでください」
「ありがとうごさいます…」
感謝の言葉を述べた清水さんがふわりと近づいて…
…ぱしゃり。
「今日の私の特別な景色です」
ツーショット。初めての。清水さんは片手でピースをしていて、僕は驚きの表情で固まっていた。
今までは僕の写真を撮ってストーリーにあげていたけど、今日はツーショット。
清水さんから写真を送ってもらい、僕もストーリーに載せた。
すると、清水さんからすぐいいねがついた。
「では、また明日」
「また明日です」
しかし、次の日、清水さんと僕は一緒に登校することはできなかった。
お読みいただきありがとうございます…✨
本当に読んでいただけて嬉しいです!




