『FACT』
次の日。
今日も学校が休みなので、清水さんの特別な場所を探すために清水さんと僕で近所を散歩をしている。
「配信どうでしたか…尾上くんが聴いているって思ったら緊張しちゃって…うまく演奏できていましたか…」
「はい。とても…とても幸せな時間でした」
嘘。
「何か怒ってますか?」
「いいえ」
「嘘です。怒ってます」
「怒ってないです。大丈夫です」
「私、尾上くんが心配です」
「僕は大丈夫ですよ」
「じゃあ、なんでそんな顔をするんですか」
気づかなかった。そんな変な顔をしていたのだろうか。
「…僕、どんな顔していましたか…」
「どんな…って…」
清水さんは何と表現したら良いのかわからないという様子で考え込んだ後、
「何の表情もなかったです。怖かったです」
と小さく怯えた声で呟いた。
「ご…ごめんなさい…」
「どうして、私の心配を受け取ってくれないんですか。どうして、私の気持ちを大切にしてくれないんですか。無碍にするんですか。『大切に思う』と『大切にする』と『大切にできる』とは全部全然違うんです。うわべだけ平気なフリをして、他者を安堵させようとする行為は巡り巡ってその安堵させるはずの他者のことを最も傷つけてることにもなりうるんですよ…!?」
「…申し訳ないです…反省しています…ごめんなさい…」
「私の方こそごめんなさい…」
清水さんの目にじわりと涙が滲んだ。
「…不安にさせるつもりはなかったんです…ごめんなさい…僕、嫉妬しちゃったんです…清水さんが人気者だって知って」
「…」
清水さんは何も言わなかった。
「…ごめんなさい…」
「…」
やはり沈黙は流れる。
清水さんはそれ以上は何も喋らない。
僕も何を言えばいいのか言葉に迷って、心の中で探し回り、挙げ句の果て何も出ては来なかった。
しかし、清水さんはしばらくうんうんと唸った後、決心したように顔を上げ、
「私の家…来てほしい…」
と言い放った。
◇
「入って良いよ」
「お邪魔します…」
清水さんの家に上がらせてもらった。
親はいない…良いのか…?
「やっぱり…僕…帰った方が…」
「ダメ。いて」
と僕は清水さんにリビングの椅子に座らせられてしまった。
「はい…」
「待ってて」
「これは私の好きなお菓子。これは私の好きな本。これは私の好きなピアノ。全部特別で大切」
と清水さんはるんるんで見せてくれた。
「ついてきて」
と清水さんは僕の手を引いて、自分の部屋に連れ込んだ。
清水さんのベッド…に一番最初に目が行ってしまった…その後に白いチェア…白い勉強机…と目が移ろっていき…そして…グランドピアノ…。
一際目立っていたが、やはり見たくなかったのだ。
見覚えのある部屋だとは思っていた。真っ白で生活感のない部屋。
昨日見た『FACT』の配信で映っていた部屋で間違いなかった。
「これが私。私の好きな私」
「へぇ…そうなんですね…」
「配信はね、喋らなくていいから楽なの。私ずっとこのイソスタライブを心の支えにしてきたの。私と世界を繋ぐ唯一の架け橋みたいな」
衝撃を受けた。僕がバカだった。僕は最近、清水さんにとって大きな存在になれたと思っていた。それが、自分が別に特別な存在じゃない。清水さんにとっての特別じゃないってわかった途端、なんともいえない寂しさに包まれてしまった、だけど、それをさらに包み隠すように、「大丈夫」って嘘をついた。僕が普段から嘘をついてしまう清水さんよりも誰よりも傷つくことを恐れている。だから、嘘で自分を守ろうとする。たとえそれがすぐにバレるような嘘でも。嘘で守った後は、何でもないふりをする。それが僕。
清水さんにとって、僕よりも大切にしなくちゃいけないものなんてたくさんある。
特別で大切なものなんていくらあっても良いのだ。一つに絞らなくてもいいのだ。
清水さんにとっての特別がこの家にはたくさんあって、溢れている。
それが、今は嬉しいと思える。
「…僕がもう一本の橋になります。僕が清水さんの心の支えになります。だから、僕のそばにずっといてくれませんか…」
「祐希、好き」
「………あはは…ありがとうございます…」
…いつもの嘘で軽く流されてしまった。
僕的には真剣に告白したつもりだったのに。
このやりとりも慣れたものだ。
「本当だよ?本当に好きなんだよ?嘘じゃない」
「え…?」
「いや、嘘。嫌い。大嫌い。そばにいてほしくない」
「清水さん…?」
「どうしましたか」
がらりと清水さんさっきまでとは表情を変え、怪訝そうな顔で僕の顔を覗いている。
「どうしましたか…って…えぇ…?」
「あれ、ここ私の部屋!?なんで尾上くんがいるんですか!?え!?え???」
「え…さっきまでお話ししていましたよね…?」
「何の話ですか…」
清水さんは僕を家に連れて来た記憶がなかった。
…じゃあ、さっきまで話していた清水さんはなんだったんだ?
憑霊?夢遊病?笑えない嘘?それとも…
…一番嫌な考えが脳裏をよぎった。
それだけは嫌だ。
◇
ピコン♪
「学校にカウンセラーがいるらしいんです。僕も一緒に行くので、今日のことを相談しに行きませんか?」
ピコン♪
「ありがとうございます。記憶がないというのは怖いので、ご迷惑でなければ、ついてきていただけると助かります」
そりゃそうだ。自分で記憶もないまま、男を家に連れ込んでいるなんて怖すぎる。
「では、明日の放課後よろしくお願いします」
「こちらこそ。あ、それとストーリー今日の分あげました」
そのLIMEが送られてきたとほぼ同時に僕はイソスタを開き、表示されている清水さんの『まこと』のアイコンをタップした。
そこに写っていたのはやはり、僕の写真だった。
ただ、今回は僕がカメラに視線が合っていない。
清水さんの家で清水さんの記憶がないことが判明した時に動揺して、転んだ瞬間をカメラで収められていた。隠し撮りだった。
僕は清水さんの特別な存在の一つになれて嬉しい。
僕は自分の部屋の写真を撮ってストーリーにあげた。
すると、すぐに清水さんからいいねがついた。
お読みいただきありがとうございます…✨




