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文字と魔物と洞窟



 翌日からレオ殿への授業が始まった。

 レオ殿は決して馬鹿ではない。人との接触が少ない山奥に暮らしているため常識という点では疎いところもあるが、元高位身分の親父様の元に育ったおかげか、無意識ではあるが教養や知識を多く備えている。単語の語彙も普通の平民と比べても豊富だ。アルファベットを教えたところ、理解も飲み込みも早く、教えれば教えるだけ何でも吸収していく。

 とはいえ初日なので、まずは木の板に炭で文字を書く練習から始める。


 「……ふむ。では、卵はe,iであっているか?」

 「そうだ。複数形はeier。次は水だ」

 「w,a,ß,e,r……」

 「違う。水ではßは使わない。ss…」

 「難しいな。個々に形を覚えるのは大変だ」

 「慣れていけばいいのだ。時間は沢山ある」


 そうやって一つ一つ単語を書き出して練習する。文字さえ覚えてしまえば、あとは我々が話しているように書けばいいだけだ。

 私はレオ殿が休憩や書き込みをしている間、棚の中にある本を読ませてもらった。薬草学の本、鉱物学、占星術、建築のスケッチ……その種類は多岐にわたる。

 専門知識のない私が読んだところで分かるはずもない内容だらけだが、筆跡が一致していることから同一の人物が書き上げたものだと推測できる。恐らくはレオ殿の親父様だろう。

 そうまでして文字を嫌うほど学問に励んでいたのだろうか?あるいは、ここに流れ着いたことと何か関係があるのだろうか?


 「…文字はだいたい分かった。あとは反復して繰り返すだけだ」

 「レオ殿は飲み込みが早いな」

 「記憶は得意な方だ」

 「では今日は数字を教えておしまいにしよう。ペースを抑えないと、このままいくと3日後には私の教えれるような基礎は教え尽くしてしまいそうなのでな」


 そうして正午まで授業をし、軽くパンで腹ごしらえをしてから、レオ殿に連れられて魔物の表れる西の山へ向かう。歩いて1刻程だという。昼食を食べている間も、レオ殿は気を使ってかいろいろ話してくれる。私が聞いて、彼が答える形が多いが、私が不安にならないよう極力配慮してくれているようだ。優しさが身に染みる。

 (あぁ…故郷でもこんなふうに気楽に話せていたらな)

 そう思ってしまった。


 

 私は皮鎧と剣を身につけ、レオ殿も同じように皮鎧と薙刀のような槍と短剣を身につける。レオ殿に馬子にも衣装、様になっているとからかわれたのが恥ずかしかった。


 

 「確か出るモンスターはゴブリンとゴーレムということだったな」

 「そうだ。ほとんどのゴーレムに関しては、魔力の宿った土塊(つちくれ)と変わらん。完成したら厄介だが、そんな個体はほとんど居ないから軽くいなせる…問題はゴブリンだ。奴ら、1匹だけなら大した驚異ではないが、基本的に2~5匹の集団で動くから他対一に持ち込まれる可能性があり危険だ。だから俺も同行している」

 「ゴーレムが完成するとどうなるのだ?」

 「ゴーレムは完成すると背丈が3身半(約3m30cm)ほどになり、皮膚も粘土から硬い石のようになる。こうなると斬撃はあまり通らない。そうなったらお手上げだ。見かけたら逃げろ」

 「わかった」



 

───────── 




 俺の話を聞いたアシュリーンの顔が強ばっている。会話は家にいた頃よりも少ない。

 

 アシュリーンは冒険者だと言っていたが、鎧の傷は少なく、馬子にも衣装とからかいはしたが、あまり実戦なれしているようには思えない。手の剣だこも、あまり出来上がっておらずここ数年で出来たようだ。親父殿や俺のものと比べても圧倒的に年数が足りていないように思う。

 もしかしたら凄腕の冒険者なのかもしれないが…。一人で行かせるのは不安で俺を連れて行くように提案したのは正解だったかもしれない。


 「着いたぞ」


 目の前には急勾配の崖があり、その根元に口の大きな洞窟が広がっている。かなり大きな洞窟で、得体の知れない気味の悪い鳥がギャーギャーと鳴いて反響している。


 「一応装備は持ってきてはいるが、今日は中に入ることは無い。周辺の魔物を狩るぞ」

 「わかった」


 そうして付近を索敵していると、目の前にゴブリンが現れた。3匹のグループで、子鹿だった残骸をいたぶって遊んでいる。残虐な連中だ。


 「行くぞ。俺が右の2体をやるから、左端の一体をやれ」


 そうして一斉に藪の中から躍り出て、物音に気づいたゴブリン達に間髪入れずに胸へ一突き刺す。


 (まずは一体…)

 

 2体目が木の棒を振りかざしてこちらへ向かってくるので、槍の柄で払う。体勢がよろけたところで頭と首へそれぞれ斬り込み、確実にとどめを刺す。

 振り返ってアシュリーンの方を見ると、既に倒し終えていた。返り血を浴びているようで、右足が血だらけだ。息が荒い。


 「大丈夫か?怪我をしてるのか?」

 「いや、返り血だ…なんでもない。ただ、久々にモンスターを相手にしたから、ちょっとな…」

 「…そうか。無理するなよ」


 思ったよりやるみたいだが、血に対して少し動揺しているようだ。俺もモンスターとの経験が多い訳では無いが、血自体は狩りで見慣れているから問題ない。アシュリーンに関しては慣れと時間の問題だろう。


 「正直、ゴブリンは倒してもあまり役に立つ素材はない。魔石も出ないしな。燃やして残置しよう。火種は持っているか?」


 モンスターや生き物の死骸は、その後土地の魔力を吸ってアンデッドになることがある。要らぬ問題を産む前に火で焼いてしまうのが常套だ。

 

 「あぁ」


 そう言ってアシュリーンはぶつぶつと何かを呟き、手のひらから炎を吹き出して見せた。


 「…魔法か」

 「そうだ。見たことがあるのか?」

 「親父殿が何度か使っていた。流れの冒険者を泊めた時も、そいつは使っていた。親父殿はもう少し小さな火種程度のものしか出せなかったが…」

 「私は他の人より少しだけ魔法が得意なのだ。……しかし、親父様は本当に何者なんだ?」

 「俺の想像だが、多分冒険者のような事をやっていたのだと思う。俺が使っているこの鎧も槍も、元は親父殿のものだ。倉庫には古い剣などもいくつか眠っている」


 ゴブリンの死骸を一箇所に集める。アシュリーンは火をゴブリンへ向けて放つ。脂肪のある生き物はよく燃える。ごうと燃え上がった炎を眺めていると、後ろから物音がした。

 振り向こうと横を向くと、視界の端に、隣にいたアシュリーンが側頭部をゴブリンに殴られているのが見えた。ゴブリンを殺そうと俺が槍を構えたその時、俺も意識を失った。




 ───── ── ─

 ─── ─

 ─




 目が覚めると、俺は暗がりの中に横たわっていた。手足は縛られていないが、辺りが真っ暗であるため目が見えない。手探りで探すも槍も鞄も見つからない。

 見たところゴブリンに攫われたようだ。迂闊だった。付近にまだいる可能性を考えていなかった───などと考えているうちに、アシュリーンが居ないことに気づく。小さな声でアシュリーンを呼ぶが、辺りにはいないのか返事がない。

 俺は服の中に隠し持っていた獣脂を取り出すと、服を引きちぎり脂を塗り、牛脂と共に持っていた火うち石を使い火をつけた。

 あたりがぼうっと照らし出される。壁は岩で出来ており、天井からは鍾乳石から水がしたり落ちる。アシュリーンの姿は確認できない。


 せめて棒か何かがあれば松明ができ、辺りをもう少し照らせるのだが…。そう思っていると、奥の方から足音が近づいてくる。俺は火元から離れ、地面に伏せる。


 ───現れたのはゴブリンだった。2匹。ゴブリンの片方は右手に棒、左手に松明を持っている。もう1匹は右手に棒を持っているだけ。

 ゴブリンは俺の付けた火を怪しみ、ぐぎゃぎゃと変な声で呻くが、そのすぐ後に別の所で物音がすると関心はそちらへ移っていった。ゴブリンはまだ目の前に留まっている。

 俺は目の利く火元の近くへ小石を投げると、ゴブリンたちはそちらへ向かって歩いてくる。そして2匹が俺に背を向けたタイミングで、思い切り地面を蹴って飛びかかる。

 松明を持っていない方の首を思い切り締めるが、思ったよりも暴れるためうまく締め落とせず、手間取っている間に脇腹に棍棒で打撲を食らう。


「ッ!」


 鈍い痛みが走る。内臓が揺れる感覚がする。しかしゴブリン共々攻撃したせいで、仲間の方もダメージを喰らい、腕の中のゴブリンはその痛みで気絶した。俺はゴブリンの力が無くなったのを確認して、手を離す。ドサッとゴブリンが地に倒れる。

 松明持ちは距離を取りながらジリジリと間合いを保つ。円状に回りながら、ゴブリンの落とした棒を拾う。武器と言うには心もとないが、今は無いより遥かにマシだ。

 その時遠くから、先程よりも大きくなった物音がした。低い遠鳴りのような音もする。

 それに気を取られたゴブリンが顔を逸らした隙に、俺は頭を思い切り殴り、背中が地に着いたところを馬乗りになって顔を素手で殴った。

 5発ほど殴ったところでゴブリンが気絶したので、俺は2匹に順番にとどめを刺して言った。


 そうして松明と棒切れを手に入れると、アシュリーンがいないか辺りを照らす。ここは部屋のようになっており、ゴブリンが来た道の他にもう1つ道があるのみで人は誰もいない。幸い荷物は天井に吊るされていた。ここはひとまずの間の保管庫のようなものなのだろうか。ほかの人物のものも混じっているが相当古い。恐らく昔捕まった被害者の品物だろうが、吊るされたままということは生きてはいまい。アシュリーンの荷物も持っていた剣とともに吊るされていた。


 中身の無事を確認して、他に使えそうなものをいくつか頂戴してから、手早く移動を始める。

 頭の中にあるのはアシュリーンの安否のことだけである。 

 彼女の剣と荷物がここにあるということは、今丸腰でどこかに囚われているか、さまよっているに違いない。ましてゴブリンなど…女なら何をされているか分からない。


 その時、一体のゴーレムが視界の端に現れた。丸めた粘土を人のように組み立てたような見た目をしていて、背も俺の半分ほどで、生まれて間もないようだ。よろよろと俺の前へ歩み出て一瞬止まったかと思えば、向きを変えてゴブリンが来た方とは逆の道へと歩いていく。


 (…そっちに何かあるのか?)

 

 無事でいてくれと強く思いながら、ゴーレムに続いて洞窟の中を進んで行った。

 




 

PVでもブックマークでもコメントでも感想でも、何かしらリアクションをして頂ければ執筆の励みになります。改善点でも何でも大丈夫です。見ていただいてることが何よりの励みです。

投稿頻度は不定期になりますがプロットと構想自体はできており、なるべく早く書き起こしますので、何卒よろしくお願いします。

作品自体は長く続きますので、気長に読んでいただけたらと思います!

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