タイトル未定2025/11/20 14:06
「俺も帰っていいか?」
そう奥の方から声をかけてきたのは兵頭翔平。
兵頭は本当に家にいたようでザ・部屋着、という装いだ。
ぼさっとした頭をポリポリと右手に持ったシャーペンでかいている。
「山口がどうやってワープ装置を開発したかなんてどうでもいいんだ。俺はまだ受験生なんだよ。お前らと違ってな。」
そうか、まだ兵頭は国立大学合格に向けて受験勉強中か。
今週の土日に陽国統一大学テスト、まあ俗にいう一次試験があったはずだ。
山口がどのようにしてワープさせたか、そこには興味はあるが、やっぱり道化には付き合ってられない。
ここは兵頭に乗っかるのが得策だろう。
「じゃあ兵頭に続いて俺も──」
「ワープ装置なんて開発されてない。どこの国も。どの研究機関も」
遮るように奥側から大声を出したのは。ボサボサで黒髪でショート。兵頭と同じであまり身なりに気を使っていないんだろうな、という白衣の女子。片手にはエナジードリンク。
あれは──誰だ?
「ごめん、君は、、、誰だったかな?」
山口が問いかける。山口で分からないのならこの場にいる全員が寛恕のことを認識できていないはずだ。
「ウチ?ウチは落合。落合 有栖。」
「うお!落合のありす!おちありじゃーん!久しぶりー!」
隣の陽キャの典型例、越智は差し置いておくとしよう。
「なんでそんなことが分かるんだ?」
若干イラついた感じの兵頭が落合を責め上げようとする。
浪人生って大学に受かるのがその一年を生きる意味だ、とどこかで聞いたことがある気がする。
兵頭にとってはこの一次試験の直前の追い込みの一秒は貴重な時間だろう。
詰められた落合は胸元のポケットからカードのようなものを見せる。
『国立最先端技術研究所 研究員 落合有栖』
──国立最先端技術研究所⁉
陽国での最先端技術を担う公的研究機関だ。
今となっては身近となったモバイルYOH、というかYOHを作り上げたのもこの研究所だ。
首都の大学を出ていても入ることができないと言われている研究所にどうしてまだ二十歳の落合が──
「ウチの研究所でも転送装置の成功例は確認されていない。ここが言える限界。ここからは国家機密。」
「国家機密って…そりゃお前が本当に研究員ならば──」
そうたじろぐ兵頭を傍らに
「えーマジじゃん!Wi-Fiでおちありの名前検索したら海外の論文に名前載ってんじゃーん!」
いつの間にかモバイルYOHを取り出していた越智が横でキャッキャと騒ぐ。
ということは、落合は身分を偽っていない…?
え、落合ってそんな天才キャラだった?
テストの成績とかあまり良かった記憶がないんだけど。
まあ、この際そんなことはどうでもいい。
仮に落合が本当のことを言っているのであれば、科学力で世界TOPクラスと言われている陽国でも転送装置が開発されていないこととなる。
それはすなわち、世界にワープなんて都合のいいことをできる人はいないということ。
俺がそんなことをグルグルと考えている中、パンパンと手を二回たたく音が聞こえた。
「今から2つのことを共有しよう。
1つ目。一旦みんな落ち着くための時間を取ろう。
2つ目。話し合いがどんなに長引いても20:30には全員帰ることとしよう。」
どうやら空気感的に帰るわけにはいかなさそうだ。




