調査タイムアップだが何の成果も得られてない
先に帰ってきたのは五百旗頭。汗一つ書かないで戻ってきた。
そして1時間弱に経ってからようやく渡辺が戻ってきた。
顔に傷があるわけではない。
きっと殴り合いをしていたなんて言い出しても誰も気が付かないだろう。
その点、五百旗頭はうまく立ち回ったようだな。
さて、俺はこの1時間、相棒の幸司郎と一緒にいろんなクラスメイトの配信を見ていたが、めぼしい収穫があった訳じゃなかった。
山口が18:30までという比較的短い時間を指定しなかったら今頃暇をもてあそんでいたに違いない。
「それじゃあ、時間だ。みんな聞いてほしい。」
時間になったのを確認してから山口が席を立ってまた話し始めた。
「みんな誰かの配信に行ったと思う。ただ残念なことに配信者側全員が配信をやっているわけじゃなかった。」
それはそうだろう。
現状、俺たち投票者と配信者が意思疎通できる手段はない。
俺らが確認するから配信をやってくれ、ということは言えないのだ。
もしかしたら、向こう側から俺らの動きを見ることも可能なのかもしれないが、こんな命がかかった状況で自分以外を気にしている余裕があるやつはいないだろう。
「限られたクラスメイトの限られた時間、配信をやっていたわけだけどその中で誰か何か思うことがあれば何か共有してほしい。」
するとアイドルの佐藤が挙手をする。山口が発言を促すと
「やっぱり京磨くんが怪しいと思った。」
やはり渡辺が疑われるか。
模擬投票で1位を取り続けた以上、当然の流れととらえることが出来る。
「その根拠は?」
「京磨くんの配信は、クラスメイトを野球選手として見立てるような配信だったから。なんか怪しいなって」
やっぱり根拠に乏しい。
模擬投票で2位を取っている佐藤にとってはすぐに自分の安全を確保したいところがあるのだろうが、この話し合いはそんなに単純ではない。
「申し訳ないが──」
「ちょっといいか」
ここで発言を申し込んだのは、渡辺…ではなく五百旗頭だった。
「あやの方の佐藤は何か勘違いをしていないか。けいまはどう考えたって人間だ。」
しつこいようだが、俺や五百旗頭が佐藤、と呼び捨てしないのはこのクラスにもう1人「佐藤」姓がいるからだ。
「なんか証明でもあるの?」
やや切れた風にアイドルの佐藤が言い出す。
そう言ってもお前のも根拠に足りないだろう。
「俺も理論派だって訳じゃない。それもあるから一旦状況を整理させてくれ。」
そういいつつ、五百旗頭は居酒屋の中心へと歩みを進める。
「この人狼ゲームには、俺ら投票者と配信者の2つの役割がある。そうだろう?」
「なあ、五百旗頭のやつ、いまさら何を言っているんだ?」
小声で聞いてきた幸司郎を左肘でどついて、黙らせる。
「そして、すべてのプレイヤーが人格をコピーされている。そして、どちらかのサイドに自分のAIがいるって訳だ。そして、あやの方の佐藤。お前は混乱していないか?」
「…混乱?」
「配信者の京磨が野球ゲームをしていた。それがなぜ怪しいと繋がる?」
「…そんなのなんとなく。」
「なんとなくじゃダメなんだ!」
普段の五百旗頭は温厚だ。それと体格が相まってものすごい気迫でアイドルの佐藤が攻められているように見える。
事実、アイドルのほうの佐藤はその場でたじろいでいる。
五百旗頭居酒屋の中心で演説をするのかと思いきやそこを通り過ぎて女子が陣取っているエリアまで入っていく。
まさか、あいつまた暴力をふるう気じゃ…と心配していたところ男子側からスッと立ち上がる奴が一人。
渡辺だ。
「いいか、この投票では選ばれたやつが死ぬ可能性がある。」
その勢いで女子につかみかかろうとしている五百旗頭を渡辺が抑えた。
そこに山口が加わり五百旗頭はいったん落ち着く。
「つまり、ゆーとが言いたいのは、京磨が野球ゲームをやっているだけでは根拠に足らないといったところだろう?」
山口のフォローに頷く五百旗頭。
「五百旗頭くんの言う通り、もし人工音声の言うことが本当なのであれば両方ともにAIであることには変わりはない。
だから、誰がAIかっていうよりかはAIの特徴について整理するべきだと思う。」
次に発言したのはやまゆり。
「なるほど、興味深い意見だ。そのまま続けてもらってもいいかい?」
そこからまた議論が始まるのであった。




