大人の野郎2人の言い争いと、それ以上と
渡辺の様子が心配なので、渡辺と五百旗頭が話している近くまで行ってみることとした。
ことは大きくしたくないので、隣の幸司郎にも、ちょっとトイレ行ってくるわ~くらいの感覚でスペースを空けてもらった。
入り口から正門へと続く入り口を通り抜ける。
あたりは真っ暗だ。
本当であれば、もう少し家庭からの漏れる光があるとは思うが、この世界ではそこまで再現されていない。
代わりにきれいな冬の空が上空に広がっている。
2人は正門は言って右側に少し進んだところにある用具室の前にいるようだ。
渡辺はプラスティック製のバットを持っている。
俺は2人の死角へと進み身をひそめる。
「このままでいいのか」
「…どうしろっていうんだ。」
2人の会話の内容が若干聞こえてきた。
五百旗頭と渡辺が若干の言い争いをしている。
渡辺はバットをもって素振りを強行しようとしたところ、五百旗頭にそれを掴まれた。
「諦めるのか?」
五百旗頭のその言葉に渡辺はキレたようだ。
「じゃあ教えてくれよ!どうしたら俺が人間だって証明できるのかを!」
これは気まずさ100%だな。どうやって五百旗頭は渡辺をわからせるつもりなんだろうか。
暗さで二人の姿はよく見えないが、渡辺が両手を振り上げたことはわかった。
ついでに、その両手におもちゃのバットが握られていることも。
(これは、マズいか…!?)
一瞬仲介に入ろうと思ったが、渡辺はその手を振り下ろさない。
「殴らないのか。そんなの玩具だぞ。」
「これはスポーツのためのものだ。凶器にしちゃあいけない。たとえ小学生向けのものでも、な」
「…京磨。少なくとも俺は一つ確信していることがある」
少し間が空き、気まずい雰囲気が2人の間に流れる
俺も出ていきたいが、完全にタイミングを失っている。
「お前、人間だろ?」
その気まずい雰囲気をぶち壊したのは五百旗頭だった。
何の間接的な言葉に包むことのないストレートな言葉。
だが、渡辺に効果が抜群だったのは隠れている身でも分かった。
「ゆーと、お前はどうなんだ。」
「お前に俺がAIに見えるか」
「…見えない」
「俺にお前は小さい時から夢を追っていたあの野球バカにしか見えないんだが」
「…!」
「お前、国際大会出たくないのか?メジャー行きたいって言ってなかったか?」
この言葉に渡辺は思うことがあったようだった。
プロ野球選手としては実力不足だが、メジャーにあこがれているという面ではドンピシャだったらしい。
(野球から攻めていくスタイル…か)
正直それがいいだろう。ただ、渡辺にもだいぶダメージを与えるやり方だ。
どう出る?五百旗頭…?
「俺は茶兎ほど、理論派じゃない。ただ一人の男として。そして一人の野球ファンとしていえることがある。」
「なんだよ」
ここでまたやや間が空く。
「本当に死のうが死にまいが、自分が人間だと証明できない奴は、メジャーにはいけない」
その時にピンと張っていた緊張の糸が切れたのが分かった。
渡辺がバットを捨てて五百旗頭に襲い掛かる!
俺が止めに入ろうとしたとき、その必要はなかったのだということがすぐにわかった。
五百旗頭が渡辺を背負い投げしたからだ。
そして、その瞬間暗闇越しに五百旗頭と目が合う。
(ここは大丈夫だ。お前は戻れ。)
そう目で訴えられたので俺は音を立てずに戻ることとした。
喧嘩は五百旗頭も慣れていないだろうが、あいつの身体能力はバケモンだ。
そのことをわかって渡辺は突っ込んでいっている。
絶対に勝てないとわかっていても。
どうやら、五百旗頭は時代錯誤も甚だしく暴力で分からせるつもりのようだった。
それだったら、本当に俺の出る幕はない。
渡辺に見つからないようにコソコソと居酒屋に戻るまでだった。




