渡辺京磨②
越智は渡辺の前に膝まつく。
何をするのかと思いきや…
パシン!という声が響き渡る。
気づいた時には振りぬいた越智の右手がそこにはあった。
「バーカ!情けねぇんだよ!」
「…」
越智は怒りで肩を上下に揺らす。
「お前1軍で出場できてないっていうからなんでかと思ってたら!そこじゃねーか!
メンタルが弱ぇんだよ!自分の恥でもプライドでも捨ててもがいて、あがいていくのがプロじゃねえのかよ!」
今まで何も考えずに生きているんだろうな、と思っていた越智の感情のこもった説教。
やや論理性に欠けるところはあったが、言いたいことは伝わってくる。
確かにこういう場面に屈しない精神力ってのは必要だろう。
それこそ野球という心理戦を生業にするのであればなおさらだ。
「百歩回ってだぞ!?野球選手同士で相談することがNGだったとしてもだぞ!?
なんで6年間一緒だったウチらにまで臆病になってんだよ!」
「そ、それは…」
「ああん?」
ちょっと不良要素が加わった越智。
それには俺も賛同するところがある。
一人では乗り越えられない壁があるこそ、結束力が高い1組であるこそ、こんな意味が分からない人狼ゲームだからこそ。
俺たちクラスメイトを頼ってほしかった。
もう一発平手打ちとしている越智の右手を押さえつける。
「邪魔すんな!」
「越智!やりすぎだ!」
魂が抜けたように腰を落とす渡辺。
一回メンタルが崩壊したのであれば、再生するには時間が必要だ。
そして、その再生に俺たちは必要ないだろう。
また必要となれば向こうから話しかけてくるはずだ。
いまだに抵抗する越智を無理やり立たせて俺たち二人はその場を後にする。
サボりの渡部とメンタル回復中の渡辺。
今実際に動いている鬼は五百旗頭一人だろう。
ただ、それを踏まえても結構な人数が捕まっているのではないだろうか。
「瑞樹はいいのかよ!あいつがあのままで!」
これは時代的に古いかもしれないが、男にはプライドというものがある。
それは時にしては役に立つし時にしては面倒くさいものだ。
同じ男、という表現が古臭いのはわかっている。
だけど、あいつは今1人にしておくべきだ。
仮に誰か必要になるとなれば、サボりではあるが渡部があそこにはいる。
俺はまだ騒ぐ越智の腕を掴んだまま、おそらく主戦場である校舎に入っていった。
願わくば、あの人間臭さが残った渡辺が立ち直って、俺たちのことを追いかけ始めることを祈って。




