渡辺京磨①
カウントがゼロになり、鬼は人間の捜索を始める。
ただ、最初の3人の動きは鈍い。
体力を温存したいのかそれとも──
「そこは、俺のスペースだ。どいてもらえるか?」
サボりたいのか。
最初に俺らのところに来たのは、渡部。
そういえば、渡部は3回連続で捕まっている。それにあんまり疲れているイメージがない。
「最後くらい本気を出したらどうなんだ?」
「なんだぁ?説教か?どの立場から言ってんだよ。俺は最初からこんなゲームには興味ないっての。」
「本当に死ぬかもしれないのにか?」
「死にはしねえよ」
俺らの傍、ちょうど太陽が当たらないスペースに迷いもなくゴロンと横たわる渡部。
この余裕はどこから出てくるのか。
「あい、るるのくそ野郎!なんかつまんないから、ちゃんと追いかけろよ!」
そう言いながら、越智が渡部をおちょくる。
それもそれで悪くはないが、俺が待ってるのは渡部じゃない。
想定外の渡部の対応は越智にしてもらおう。
俺が待っているのは、
「こんな近いところにいるってことはあきらめたってことか?」
そう話しかけてくる渡辺 京磨だ。
居酒屋にいると何かと人耳があるからな。
鬼ごっこで渡辺が鬼になってくれたほうが少人数で話すには都合がよかった。
「いや、渡辺と話したかったんだ。」
「俺と?」
「ああ、お前、ぶっちゃけ模擬投票結果どう見てんだよ。3回連続で1位を獲得してるよな。」
そこまで言うと渡辺の顔から笑顔が消える。
やっぱり気にしていたか。
「俺には俺流のやり方がある。それでAIだと間違えられれば本望だ。」
「『俺流のやり方』?笑わせてくれるな。」
横から割ってはいってくる渡部。
寝っ転がっていることも相まって、心の底から渡辺のことを馬鹿にした話し方をしている。
「…何か文句でもあるのかよ。渡部。」
「そりゃあそうだよ。こんな誰も死ぬはずのないゲームに馬鹿みたいに真剣になりやがって。滑稽滑稽。」
腹を抱えてガハハと笑う渡部を見て渡辺の拳に力が入る。
「じゃあ、今日の投票にお前を入れていいんだな。渡部。」
「…入れても構わない。死ぬわけがないからな。ただ、このままだったらお前が処刑されるんじゃねえのか?」
「そう、それがあるから話しかけたかったんだ。」
このまま二人に会話させてたら俺の本来の意図──渡辺の弁明が聞けないと判断した俺は会話に割り込む。
「いったん、このゲームがマジのやつなのかどうかなんて関係ない。どちらにせよお前は人間じゃないって言われてる。そこに対してはどう思ってんだよ?」
そう、本当にこのゲームがなくて、投票を終えても実は誰も死ななかったとしても、『この人は人間じゃありません』と言われるのはどうなのか。
仮でもなく渡辺はプロ野球選手だ。スポーツ選手であり、エンターテイナーだ。
その本領を聞き出したかった。
「俺は…俺は…」
両こぶしを握ってプルプルと震える渡辺。
両ひざを地面に付けて情けなくうなだれる。
「人間だよ。だけど、、、どうしたらいいのかわからないんだ。」
かすれるような声で渡辺は続ける。
「プロってのはな、ある意味孤独なんだ。自分の肉体が勝負。それを一番わかっているのは自分だからな。
最終的には自分で自分の問題を解決しなくちゃいけない。」
さっきまで笑っていた渡部を含めて全員が沈黙を守る。
「だからかな。いつの間にか俺は誰かに相談することをやめちまったんだよな。
先輩の選手に聞けば打法とかのアドバイスをくれたのかもしれないけど、なぜか俺、怖くて聞けないんだ。
なんでだろうな」
「…」
こんな時に、俺はどうやって話しかければいいのだろうか。
想定外に重くなってしまった空気に俺は硬直してしまう。
そうすると、左からずっと見守っていた越智が渡辺に向かって歩き出した。




