道化の要素がどんどんとなくなっていっているんだが。
「支払いが必要ないだって?」
ちょうど横に座っている山口からそんな声が聞こえてくる。
「おい、どういうことだよ。」
「どうもこうもこういう表示でね」
山口がため息交じりに手元のホログラム画面をこちらに見えるように調整してくれた。
そこには<料金の支払いは不要です。良い人狼ゲームを!>との表示。
やっぱりこれは道化なんだろうな。
だけど、規模が大きすぎる。
「こりゃあ、俺らは相当タチの悪いものに巻き込まれたって訳じゃないか?」
対角線上に座る五百旗頭がそう言う。その声にはやや余裕がない。
「…そうみたいだね。」
本当に質の悪い悪戯なのだとしたら、主犯格に山口がいたっていいはずだ。
だが、その横顔には全然覇気がない。
本当にドッキリか何かであれば、何かしらほくそ笑んでいてもいいもののはずだ。
だって、自分が仕掛けたものなのだから。
「とりあえず、目的地を僕の家に設定しよう。瑞樹はそっちの家の近くのコンビニ前まででいいかい?」
本当であれば色々と問いただすところなのだが、如何せん越智の看病もあったから疲れている。
首を黙って縦に振ることにとどめた。
同じ質問を俺の正面に座る幸司郎にもして同意を得て山口はすべての設定を終える。
本当に支払いはいらない様子で車は滑らかに動き出す。
何も話すことがない、というか気力がないので車窓を眺めることとする。
ここで違和感を覚える。
その違和感は革新へと変わっていく。中心街を走る車。アーケード商店街のところを通ったところ。
目を凝らす。誰もいない。
三連休最後の日の夜。もっと人がいていいはずだ。
「…誰もいないな。」
俺のそのつぶやきは不気味なほどに車内に響き渡った。
ほかの3人も車外を見つめている。
ある居酒屋の前を通り過ぎた。
一瞬だが「営業中」の札が見える。
その次の瞬間に店内がチラッと見えるが、人がいる気配はない。
「俺ら以外誰もいないのか?」
そう呟く幸司郎の質問に全員無言で答える。
いや、こたえられるやつがいない。
百聞は一見に如かず、ってこういうときに使うのだろうか。
俺たちは議論なんてしてないでさっさと外まで出ればよかったんだ。
──そしたら、これは道化じゃなくて何かしらの事件に本当に巻き込まれたってことにもっと早く気が付けたんだから。
誰もいないんだから守る必要のないはずの赤信号で車が止まった。
「あり得るのかよ。こんなこと。」
俺にはずっと疑問に思っていることがある。
そこは居酒屋では言うことができなかったのだが。
もし仮にこれが何かしらの本当の拉致か何かの類なのだとしたら
「俺はどこかに連れ去られた記憶なんてない。お前らは?」
そう、記憶を失ったり銃で武装している奴らに取り囲まれていないと辻褄が合わない。
俺以外の3人全員が首を横に振る。
(誰も意識を失っていない状態で全員を拉致…?どうなっているんだ?)
「なあ、茶兎。明日からどうすればいいんだ?」
重い沈黙を覇気のない五百旗頭が遮る。
「どうもなにも、全員分かってるんじゃないかな」
俺たちをぐるっと見渡して山口は続ける。
「僕たちは何らかの方法で、現実世界から隔離されてしまった。
そして、あの人工音声の言うことを聞く必要があるようだ。」
「この中の誰かがAIかもしれない。それを僕たちは選ばなきゃいけないんだ」
運命の神様っていうのがいたらこれは皮肉なのだと思うが。
山口が言い終わると同時に俺たち御一行の車は第一経由地である俺の家の近くのコンビニの駐車場に到着した。
「明日、居酒屋に9時でいいんだよな?」
ここまで来たら腹をくくるしかない。
俺はそう車内の山口に確認する。
「そうだね。よろしく頼む。」
そう言い残して、残り三人を乗せた車は駐車場を後にした。




