お題 好き、嫌い、
好き、嫌い、好き、嫌い……。
私は、花びらをちぎっては、呪文みたいに唱えた。……古典的だって言われたって、なんだっていい。こんなのに頼っちゃうくらい、私は今参っているのだ。
「……そんなの、気休めにしかならないわよ」
「うるさい、わかってるよ私だって。……えっと、今どっちだっけ……? え、えと、好き!」
そう言って花びらをちぎる。すると、残りはあと3枚になった。だから、つまり……。
「あ、あぁ……! うぅ〜……! もー!」
天を見上げながら叫んだ。夕焼けの河川敷は私たちを置いてくみたいにキレイだ。
「夏鈴ちゃんのせいだからー! 途中で話しかけるからわかんなくなっちゃったじゃん!」
「花占いにわからないもないでしょう……」
逆恨みみたいに、隣に座る箕部夏鈴に叫び散らす。夏の制服に身を包んだ彼女は、疲れたように息をついていた。
「それにね、花びらって、最初から数が決まってるのよ」
「え?」
「例えば、これ。コスモス。8枚の花びらがあるでしょう。フィボナッチ数って言うらしいけど……まぁ難しいことは置いといて」
そう言って、鮮やかな紫色の花を取って説明してくれる夏鈴。
「つまり、結香が最初に『嫌い』から始めてれば、自動的に『好き』が決まってたって訳」
「んなっ! ……わかってたならもっと早く言ってよー!」
むすっとして、ぎゃあぎゃあ騒いでみせた。彼女に文句言ったって、何も変わらないってわかってるけど、もう我慢ならなかった。
ため息をつく。あの人が、もうあと半年もしたらいなくなっちゃうなんて、そんなの嫌だ。
「……先輩、私の事、全然見てくれないし。もう嫌んなっちゃう」
「仕方ないでしょう。私たちも、あと2年後には同じことしてるわよ」
「そうだけど……」
──中学に上がって。私は初めての恋をした。一目惚れってやつだった。
部活動の説明会で1年生が集められて、体育館の壇上に上がっていった、その先輩。ユニフォーム姿が眩しかった。
その先輩はサッカー部の部長さんだった。なんとかして会いたくて、私はろくに知らないサッカー部のマネージャーに立候補した。
なのに。
その先輩は、結構モテるらしくて、既にいたマネージャーさんとよく話をしていた。
羨ましかった、いけ好かなかった。
私は積極的に絡みに行ったつもりだけど、先輩は誰にでも同じような笑みを振りまくだけで。
その笑顔に、少なからず救われてたけど。……独り占めしたくて、たまらなかった。
アプローチをどれだけしかけたって。先輩は私には振り向いてくれなかった。
……夏の大会が終わってからは、先輩は受験勉強のため退部した。
それからはもう、何週間も、会えていない。
「……はぁ。退部しちゃった今、どうやって話しかけに行けばいいの……?」
「普通に行ったら? 後輩らしく『センパーイ♡』って」
「あざとすぎる……そういうの先輩絶対嫌いだもん」
「じゃああんただけで何とかしなさいな。私にそういう相談は向いてないから」
「むぅ。意地悪」
「どっちが。私に電話で泣きついて『今すぐ来て!』なんて。メンヘラかっつーの」
「うるさいうるさいうるさい! そういうとこー!」
もうあったまきた。ふんっ! と私は座り込んでる夏鈴の膝に思い切りダイブした。
「重い……」
「撫でて」
「……めんどくさ」
そう言いながらも、夏鈴は私の頭を撫でてくれる。柔らかい手のひらの温もり。つい目を細めた。
「……遅かれ早かれ、ちゃんと思いは伝えたら? ダメで元々、初恋なんて実らないってよく言うけど」
「一言どころか二言余計」
「はいはい」
撫でられる頭が、なんかこう、ごりっ、ごりっ、って感じになってきた。ちょ、力入りすぎじゃない?
「ん、ぅ……もっと優しく撫でて」
「注文が多い……」
夏鈴は、そんな不貞腐れたような私を見て、静かにこう言った。
「だけど、結香のそういう正直なとこ、けっこう好きよ」
「……私は夏鈴ちゃんのちょっと乱暴なとこ、少し嫌い」
「あっそ」