表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

お題 好き、嫌い、

 好き、嫌い、好き、嫌い……。

 私は、花びらをちぎっては、呪文みたいに唱えた。……古典的だって言われたって、なんだっていい。こんなのに頼っちゃうくらい、私は今参っているのだ。

「……そんなの、気休めにしかならないわよ」

「うるさい、わかってるよ私だって。……えっと、今どっちだっけ……? え、えと、好き!」

 そう言って花びらをちぎる。すると、残りはあと3枚になった。だから、つまり……。

「あ、あぁ……! うぅ〜……! もー!」

 天を見上げながら叫んだ。夕焼けの河川敷は私たちを置いてくみたいにキレイだ。

夏鈴(かりん)ちゃんのせいだからー! 途中で話しかけるからわかんなくなっちゃったじゃん!」

「花占いにわからないもないでしょう……」

 逆恨みみたいに、隣に座る箕部(みのべ)夏鈴に叫び散らす。夏の制服に身を包んだ彼女は、疲れたように息をついていた。

「それにね、花びらって、最初から数が決まってるのよ」

「え?」

「例えば、これ。コスモス。8枚の花びらがあるでしょう。フィボナッチ数って言うらしいけど……まぁ難しいことは置いといて」

 そう言って、鮮やかな紫色の花を取って説明してくれる夏鈴。

「つまり、結香(ゆか)が最初に『嫌い』から始めてれば、自動的に『好き』が決まってたって訳」

「んなっ! ……わかってたならもっと早く言ってよー!」

 むすっとして、ぎゃあぎゃあ騒いでみせた。彼女に文句言ったって、何も変わらないってわかってるけど、もう我慢ならなかった。

 ため息をつく。あの人が、もうあと半年もしたらいなくなっちゃうなんて、そんなの嫌だ。

「……先輩、私の事、全然見てくれないし。もう嫌んなっちゃう」

「仕方ないでしょう。私たちも、あと2年後には同じことしてるわよ」

「そうだけど……」



 ──中学に上がって。私は初めての恋をした。一目惚れってやつだった。

 部活動の説明会で1年生が集められて、体育館の壇上に上がっていった、その先輩。ユニフォーム姿が眩しかった。

 その先輩はサッカー部の部長さんだった。なんとかして会いたくて、私はろくに知らないサッカー部のマネージャーに立候補した。

 なのに。

 その先輩は、結構モテるらしくて、既にいたマネージャーさんとよく話をしていた。

 羨ましかった、いけ好かなかった。

 私は積極的に絡みに行ったつもりだけど、先輩は誰にでも同じような笑みを振りまくだけで。

 その笑顔に、少なからず救われてたけど。……独り占めしたくて、たまらなかった。

 アプローチをどれだけしかけたって。先輩は私には振り向いてくれなかった。


 ……夏の大会が終わってからは、先輩は受験勉強のため退部した。

 それからはもう、何週間も、会えていない。



「……はぁ。退部しちゃった今、どうやって話しかけに行けばいいの……?」

「普通に行ったら? 後輩らしく『センパーイ♡』って」

「あざとすぎる……そういうの先輩絶対嫌いだもん」

「じゃああんただけで何とかしなさいな。私にそういう相談は向いてないから」

「むぅ。意地悪」

「どっちが。私に電話で泣きついて『今すぐ来て!』なんて。メンヘラかっつーの」

「うるさいうるさいうるさい! そういうとこー!」

 もうあったまきた。ふんっ! と私は座り込んでる夏鈴の膝に思い切りダイブした。

「重い……」

「撫でて」

「……めんどくさ」

 そう言いながらも、夏鈴は私の頭を撫でてくれる。柔らかい手のひらの温もり。つい目を細めた。

「……遅かれ早かれ、ちゃんと思いは伝えたら? ダメで元々、初恋なんて実らないってよく言うけど」

「一言どころか二言余計」

「はいはい」

 撫でられる頭が、なんかこう、ごりっ、ごりっ、って感じになってきた。ちょ、力入りすぎじゃない?

「ん、ぅ……もっと優しく撫でて」

「注文が多い……」

 夏鈴は、そんな不貞腐れたような私を見て、静かにこう言った。

「だけど、結香のそういう正直なとこ、けっこう好きよ」

「……私は夏鈴ちゃんのちょっと乱暴なとこ、少し嫌い」

「あっそ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ